コラム TAKESHITA SANGYO

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コラム 賢人の思考 ~質問に感謝しよう!~

2020.01.14

今回は長年、外資系損害保険会社にてリスクマネジメントのコンサルティングに従事されておられた上田一夫先生に、実際あった事故事例から「質問の大切さ」についてコラムを書いていただきました。

 

私も従業員とのコミュニケーションにおいて、いつも気を付けていることが2つあります。

一つは、「言ったことが伝わったことではなく、伝わったことが言ったこと」であること。

二つ目は、「良い問い立てをする(良い質問を考えて相手に思考をうながす)」です。

 

急いでいる時や考える必要がない仕事、従業員の経験が浅く知識不足である状態である時は、「指示」することが大切です。ですが、指示ばかりでは、従業員が自ら考えることを放棄し、自ら仕事に対し自主的に創意工夫を行おうとしなくなってしまいます。ですから、思考できる人間になってもらいため、私は従業員に対して「良い問い立て」をするように気を付けています。

上田先生に「質問の大切さ」について分かりやすく解説していただいておりますので、みなさまもぜひご一読ください。

 

 

【著者】

上田 一夫(うえだ かずお) 氏

一級建築士

RSTトレーナー(現場監督者安全衛生教育トレーナー)

 上田先生

【プロフィール】

建築設計事務所勤務を経て、外資系損害保険会社に入社

保険事故の調査、保険金の支払いを担う査定部門に従事し、その後リスクマネジメントのコンサルティング部門に異動となり、長年にわたり、保険契約に関わる調査やアドバイス、事故防止活動等を行った

損害保険会社を定年退職した現在においても、保険会社等でリスクマネジメントのコンサルティングに携わっている

 

テーマ : 質問に感謝しよう!

 

  • 話す側の責任の重さ

政治家が記者会見等で「ご質問有難うございます」と言う時があります。質問者が込めた攻撃的な意図を和らげる意味合いも感じますが、人前での質問にはそれなりの準備と勇気が必要ですし、答える中で誤解を解いたり、主張したい点を明らかに出来るチャンスでもあります。素直に考えれば、質問者への感謝は当然で、当世風でもあるかもしれません。私の学生時代、勇気を出して質問しても先生はただ呆れた顔をするだけで「質問有難う」などと決して仰いませんでした。時代も変わったものだと思います。

 

さて、私の仕事の一つに事故防止講習会の講師がありました。プログラムの中にはグル-プでの実習がありますが、グル-プ分けを案内する際「誰さん、誰さん、はAグル-プ、誰さん、誰さんはB、呼ばれなかった方はCグル-プです」と言ったところ、お一人来て「私は呼ばれなかったのだけど、どこですか?」と聞いてきました。「ア-話を聞いていないのか」とガッカリもしましたが、しかし、これは話す側に責任があります。参加者の中に「グル-プ分けなのだから」と自分の名前が呼ばれるのを待ち、前後の話は聞かない方がいた訳です。他の人は呼ばれているのに自分は呼ばれない。これは聞くしかない。そんな風でしょうか。「呼ばれなかった人」を入れるのが一番早い案内の方法としてしまった私の失敗でした。この方法はよくないと反省し、その後は紙に書いて貼ることにしました。

 

講習会での出来事は笑い話で済むようなものですが、安全に関わる指示となれば話は別です。事は人の命に関わります。酸欠事故を例にとり考えてみましょう。

 

  • 酸欠の事故事例から責任の所在を考える

酸素の大切さは大抵の人は「知っています」。その酸素が無いとどうなるのか、これも分かっている気がしています。しかし、あらためて「酸欠事故」となると、その実際をどのように「知っている」のか、疑ってかかるべきです。

 

酸欠の基本的なところをお付合い頂きますが、

 

1.酸素欠乏症等防止規則によれば・・・

まず、空気中の酸素濃度が18%未満の状態を酸素欠乏という。(因みに一般の空気中の酸素濃度は約21%)

そして、酸素欠乏の空気を吸うことにより生じる症状が認められる状態を酸素欠乏症という。

18%が安全限界ということになるが、それを下まわった時の症状は、

16%:呼吸脈拍増、頭痛悪心、はきけ、集中力の低下

12%:筋力低下、めまい、はきけ、体温上昇

10%:顔面蒼白、意識不明、嘔吐、チアノ-ゼ(血液中の酸素が欠乏して皮膚や粘膜が紫藍色になること)

8%:昏睡

6%:けいれん、呼吸停止

[症状はウイキペデイアから出典]

 

2.どんな場所で起きているか?

 

【土木工事業の事故事例】

下水管敷設工事において、ある作業の為、1月半前に敷設した未使用のマンホ-ル内に入り被災した。(死亡)救助者も被災。(蘇生)

 

上記は典型的な事故だがこんな所でもという意味で、

 

【清酒製造業の事故事例】

日本酒の仲仕込み準備作業で、タンク内に落としてしまった器具を取りに入り酸欠空気で被災(死亡)

 

また、こんな新聞記事もある

長野・中野労働基準監督署(関川秀泉署長)は、管内の主力産業である「きのこ製造業者」へ集団指導を行った。酸欠事故の防止などを重点的に解説している。同労基署によれば、きのこ製造は気温・湿度を調整する必要があり、その際に培養室で酸欠事故が起こる可能性があるという。しかし、酸欠になり得ると認識している事業場は少数なため、注意を呼び掛けた。             (出典)2015.08.10 付「労働新聞」

 

つまり、業種や作業内容に限らず、鉄分の酸化、好気性微生物、腐敗物による酸素の消費等々があるところでは酸欠事故の危険性がある。

 

3.酸欠事故の実際や二次災害等

酸欠事故では「酸欠の空気を吸って~」と書かれているものがある。これとはそうとしか書きようがないからだと思われる。心臓と違い呼吸は止めようと思えば出来るが、 人の呼吸はほぼ無意識なので、実際の被災者は「その場所に入り、呼吸したら、被災」ではなく、「その場所に入ったら被災」となる。また、不足してしまった酸素を取り込もうと反射的に早く呼吸するので、さらに酸素を奪われ脳細胞の破壊につながる。酸欠は死亡率の高い事故だが、これが元で障害を残す事故でもある。さらに被災者の様子は急病と見誤りがちで、予備知識が無ければ救助者も被災してしまう。

 

という辺りが基本的な事柄と思われます。

 

さて、上記申し上げた疑ってかかるべき「知っている」人達の知識は、この内容を満たしているでしょうか。

 

1.についてはどうでしょう

人は空気の中の酸素を吸って生きている。では空気中の酸素は何%か?私は講習の中で聞いたことがありますが、40人程の参加者の中に正解者はいませんでした。

揶揄(ヤユ)するのではありません。重さの「何キロ」、高さの「何メ-トル」は作業の方法も決めてしまうものですが、通常の空気の酸素濃度にそこまでの意味はありません。しかし無関心とは言い過ぎですが、酸欠事故の遠因があるような気がします。

 

2.は「マンホ-ルを降りたところ」或いは「地中の工事で」というイメ-ジが強いようです。起きる場所の固定観念は危険です。実際には上述の通り一様ではありません。極端ですが、酸素が無くなる理由があればどこでも起きます。

 

3.はどうでしょう

「酸欠に遭えば、変調があるはずだから、その時は急いでその場を離れる」程度だとすると、かなり心配です。それが簡単に出来ないので酸欠事故と言っています。

 

各事項のギャップは私の想像です。しかし、酸欠事故発生後の調査では、原因に「当事者達の認識不足」という厄介な要素があります。このギャップの指摘が本稿のテ-マです。

 

  • 質問の大切さを改めて考える

酸欠は息を吸う事で起きる事故です。決して特殊な機械や技術の欠陥によるものではありません。そこで、所定の準備が前提ですが「認識」という厄介な問題が常に付きまといます。つまり、他の人には分かりようもない各人の頭の中の問題です。

 

仕事の現場では仕事そのものの打ち合わせが大半ですから、安全についての注意に多くの時間はさけません。しかし、そこで話し手も「では酸欠に気を付けて」程度で済ませずに、聞き手の質問を引き出せたらと切に願います。聞き手が事の重大さを、どのように知らなかったかと分かり、命を救うチャンスになるかもしれません。

 

労災事故に限りませんが、疑問に思った人が質問しない限り問題は伏せられたままです。だから、問題を明らかにし、解決に向かう「質問」に感謝すべきです。

上田先生②

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