コラム TAKESHITA SANGYO

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コラム 賢人の思考 ~身近な例で知った行政の危機管理・対応の難しさ~

2020.11.23

2017.02.13-22

私は従業員に「人間だからミスをしても仕方がない。その後の対応や姿勢が重要。」といつも言っています。ミスや失敗自体よりも、その後の行動が、企業や経営者の考えや姿勢を表すものと考えています。

今回も、八星 篤 先生に「身近な例で知った行政の危機管理・対応の難しさ」というテーマで、ミスや失敗の対応姿勢について執筆いただきました。

誰もが向き合うことだと思いますので、教訓としてご一読いただけますと幸いです。

 

※タケシタが取り組むコミュニケーションの活動(下記URLご参照)

https://www.r-station.co.jp/trc/

https://www.r-station.co.jp/recruitment/

 

 

○著者

つくだ社会科学研究所

https://www.8-star.jp/index.html

代表 八星 篤(はちぼし あつし)氏

 

八星 篤氏

1972年 東京大学経済学部卒業

1972年 第一勧業銀行入行
1996年 広報部長
1997年 企画室長
1998年 横浜支店長
2000年 執行役員調査室長 兼 第一勧銀総合研究所専務取締役
2002年 みずほ銀行執行役員調査部長 兼 みずほ総合研究所専務取締役 
同年 みずほ銀行退職
2003年 株式会社サカタのタネ監査役(社外)就任
2008年 株式会社サカタのタネ取締役(社外)就任
2013年 株式会社サカタのタネ取締役辞任
現在、危機管理、経済・金融等の講演・研修活動に従事

 

現在、危機管理、経済・金融等の講演・研修活動に従事 。なお、八星氏は高杉良著「金融腐食列島」シリーズの登場人物のモデルの一人と言われている(八星氏が第一勧業銀行総会屋事件時の広報部長時代がモデル)

 

 

テーマ「身近な例で知った行政の危機管理・対応の難しさ」

 

先日、たいへん身近な例で図らずも「行政の危機管理・対応の難しさ」を知ることになりました。多少長くなり恐縮ですが、まず経緯をお話します。

 

私の住んでいる東京都中央区では、毎年、ハッピー買物券という中央区内だけで使える買物券を発行しています。もう10年以上になりますが、最初は知名度が低く売れ行きも芳しくなかったので、逆に楽に購入出来ましたが、ここ数年は、10%割引はお得というのが、区民に知れ渡り、発売日には数か所の発売所で長蛇の列ができるようになりました。行列に長時間並ぶことが苦手な私は、ここ数年は購入していませんでしたが、今年はコロナ対策の一環として地域の消費の喚起、中小の小売店、飲食店支援のために割引率が20%に引き上げられました。

 

一方で購入方法はコロナ感染の影響を考えたのでしょう、発売日の三密等を避けるために当日の行列方式からインターネットあるいは葉書での事前申し込み制度に代わりましたので、今回は私も購入を申し込みました。しかし、新制度の導入は相当入念に周知しないと特に高齢者には新たな購入方法は理解しにくいことや、申し込むより並んだほうが良いと考える人も多いのでしょうか、予定販売額が未達となりました。

そのため、従来の当日行列方式で残額の再販売を行うという案内が区の広報紙に掲載されました。私はこれまでの経験から、今度はすさまじい行列になるだろと直感的に思いましたので、今回は購入を見送るつもりでした。しかし再販売日の直前に別件で中央区のHPを見る機会があり、ついでに、ハッピー買物券の再販売について確認すると、そこには赤字で「販売開始は9時からです。三密防止の観点からも、その前に並んでいただいても優先販売はいたしません」と書いてありました。

 

私はとっさに、これは無理だろう、広報紙ではこの点を一言も触れていないのだからと思いましたが、予想される大行列にどう対応するつもりか、危機管理・危機対応の観点から興味が湧いてきました。たまたま当日は10時半まで時間があったので、HPの指示に従って9時ちょっと前に販売場所である中央区役所に着きました。状況は予想う通りでした。中央区役所の敷地は相当広いのですが、そこを三周するぐらいに既に人の行列が出来ていました。

これを見て、購入は難しいと思いましたが、この大行列の状況の中で、危機対応としてどのような対応をするのか是非見てみたいと思い、1時間位行列に並んでみました。しかし、職員の対応は時々並んでいる人数を確認したり、交通整理に当たっている警察官の手伝いをしたりするだけで、右往左往するのみで、今後の対応等についての説明は一切なく、ただ時間が経過していくばかりでした。

 

大行列を想定せず、事前に対応を検討していなかったのだろうと思いました。そのうち、名札も付けていない男が(他の職員は名札をつけていたのですが)、交通整理や並んでいる人への指示を始めました。

他の職員に対する態度から、少し職位が高そうであったので、わざと彼に「あなたは名札も何もつけていないのに整理等をやろうとしているが、一体何者なのだ」と質問しました。彼はとても不快だという態度をあからさまに見せながら「中央区の職員です。この状況なのでとるものもとりあえず、手伝いに来たのです」と答えました。私は「職員であることを明示しないで、そもそも整理や情報連絡が出来ると思うのが大きな間違いではないか。自分が誰なのか示すことが最低限必要ではないか」というと、不満げながらも名札を取りに戻ったようでした。

 

その後も何度か彼を見かけましたが、状況の説明等が全くなかったので、呼び止めて、この先の見通しを聞きましたが、その時に初めて彼の名札を見てびっくりしました。なんと彼は中央区の危機管理室長だったのです。

 

そこで、彼に「こういう事態になることやHP上の警告と広報紙記載の違い等について事前に検討しなかったのか。危機管理とは、事前にある程度の事態を予測して、あらかじめ対応を考えておくことが大切なのではないか」と質問しました。

彼は「事前の危機管理が重要なことぐらいわかっている。ただ、今はこのような状態なので、この整理をどうするかが最も喫緊の問題だ。今後どうするかは後の問題だ」と如何にも素人が難癖をつけるなという回答でした。と言いながら実質的には何もしていない彼の行動からとりあえず、今、危機管理室長という立場からこの場に出ていないとまずいと思っているという、如何にも役所の管理職にありがちな内向きのポーズだということが分かりました。

 

そこで私は「HPにはコロナ対策として、三密を防ぐ観点からも9時以前に並んでも優先販売はしないと書いてある。それを尊重した住民が購入できないというのは、極めておかしいのではないか」と突っ込んだところ、彼は「ともかく今の状況をどうするかであって、そもそもハッピー買物券の販売は観光商工課の管轄で、危機管理室の所管外だ」と答えました。

この答えを聞いて、それが危機管理室長の発言だったことには唖然としました。多分これは彼の資質の問題でしょうが、これが行政の管理職の一般的な体質であるとすると問題だと思いました。

もちろん、民間でもそれぞれの事項に所管の部署があり、そこで出来る限りの危機管理・危機対応を実務的に検討します。また、場合によっては、他部門の意見を聴くこともあります。しかし、万一、混乱が起こった場合、お客様に「詳しいことは分かりませんが、ご迷惑をお掛けしていることは申し訳ない」とお詫びすることは有っても、お客様に面と向かって「これは私の所管外ですから」と答えることはありません。もちろん民間でも組織として上司・同僚・部下に対する配慮が必要なことは言うまでもありません。ただ、民間企業は最終的にはお客様や株主、社会のご理解とご支援が無ければ成り立ちません。特にお客様の信頼を失えば、それが企業の存続に大きな影響を与えることもあるのです。

 

お恥ずかしい話ですが、私自身も長年銀行に勤務していましたが、銀行も民間企業であり、お客様に支えられていて、お客様の信頼を失えば、大変な事態に陥る可能性があるということを初めて認識したのは1997年に総会屋事件が発覚して、大量の預金が流出し極めて厳しい事態に追い込まれた時でした。

銀行は、民間企業と言いながら、特別な存在であると無意識ではありましたが、当時は勝手に思い込んでいました。それがとんでもない誤りであることを事件の過程で思い知らされました。

 

翻って、区役所等の行政組織は、本質的には区民等に対するサービス業であり、区民が支払う税金によって成り立っているのですが、職員の中にはこの危機管理室長のように、そう思ってはいない人もいるようです。中央区が破綻することはまずないですし、しかも同じサービスをする組織は存在しない、民間ベースで言えば独占企業ですから、区民には選択の余地がありません。

このような中で、職員の業務の本質が区民に対するサービス業であることを理解させるためには、現場で直接に区民に接している方々はともかく、特に本部でデスクワークをしている管理職には、この業務の本質に関するしっかりとした教育が必須です。

区民あっての自分たちであることを徹底的に意識させないと、このような職員が生まれてしまう危険性があります。

 

話は戻りますが、この危機管理室長と話を続けても無駄と判断し、直接の担当である観光商工課長と話をしました。彼はまず「今日の混乱を招いたことについてご迷惑をお掛けして誠に申し訳ない」と詫びを言った後、今日ご迷惑をお掛けした方々には出来る限り速やかに必ずきちんとした対応をすると明言しました。

私も、自分の名前、住所を明らかにして、それでは、それをお待ちしていると話をしてその場を去りました。その後、彼からは丁重な謝罪の手紙が届き、その中で10月上旬までには、当日来て頂いて購入できなかった方々への具体的な対応を決定しお知らせしたいとありました。当日来場して買えなかった人の特定は難しいので、どうするつもりかと思っていましたが、10月10日の広報紙によれば再発行というよりは、販売数を限定しない新たな発行に近い形での対応、しかも行列方式ではなくインターネットあるいは申込書による事前申し込み方式を再度採用するとのことでした。

予算の問題もあったでしょうし、1か月足らずでよくここまで漕ぎ着けたものだと感心しました。事前の検討には甘さがあったと思いますが、その後のフォローは見事でした。一般的に言われる「お役所仕事」とはだいぶ違うと思いました。

 

各部署の連携が役所は特に悪いのでその壁を打ち破るのが大事とよく言われますが、効果が上がる横の連携を図るためには、お客様の立場に立って物事を考えることが前提になります。

そうでないと実務を知らない管理職の思いつき等で、かえって中途半端になり、混乱しやすいことに注意が必要です。バラバラな動きは危機管理上無駄と犠牲を生む恐れがあります。

今回、危機管理上の問題がもう1つありました。それは「販売開始は9時からです。三密防止の観点からも、その前に並んでいただいても優先販売はいたしません」というHPの文言が翌日には削除されていたことです。

HPの文言は削除したつもりでも必ずどこかに残りますから、お客様等の信頼を失墜する恐れのある危険な行為で、決してやってはならないことです。

 

それにしても、買物券の購入という身近で些細なことから、行政のみならず一般企業においても危機管理・危機対応の難しさと奥深さ、すなわち自分自身が常に謙虚であること、過去の経験を無視せず実情を良く知ること、しかし、それにとらわれ過ぎずに、新たな事態に対処すること等の必要性を改めて認識しました。

2017.02.13-22

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