コラム TAKESHITA SANGYO

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コラム 賢人の思考 ~「森会長の記者会見についての感想」~

2021.04.26

2017.02.13-22

広報のプロである八星 篤 先生に、JOCの「森会長の記者会見についての感想」というテーマでコラムを書いていただきました。

ここでも広報対応の基本である“謝罪”の徹底した姿勢が問われています。このことは、私たちの日々の業務の顧客対応でも活かせる知恵だと考えます。

みなさまの知恵になると思いますで、ぜひご一読ください。

 

○著者

つくだ社会科学研究所

https://www.8-star.jp/index.html

代表 八星 篤(はちぼし あつし)氏

 

八星 篤氏

1972年 東京大学経済学部卒業

1972年 第一勧業銀行入行
1996年 広報部長
1997年 企画室長
1998年 横浜支店長
2000年 執行役員調査室長 兼 第一勧銀総合研究所専務取締役
2002年 みずほ銀行執行役員調査部長 兼 みずほ総合研究所専務取締役 
同年 みずほ銀行退職
2003年 株式会社サカタのタネ監査役(社外)就任
2008年 株式会社サカタのタネ取締役(社外)就任
2013年 株式会社サカタのタネ取締役辞任
現在、危機管理、経済・金融等の講演・研修活動に従事

 

現在、危機管理、経済・金融等の講演・研修活動に従事 。なお、八星氏は高杉良著「金融腐食列島」シリーズの登場人物のモデルの一人と言われている(八星氏が第一勧業銀行総会屋事件時の広報部長時代がモデル)

 

 

テーマ「森会長の記者会見についての感想」

 

2月半ばまでのTV・新聞等は、森東京五輪組織委員会前会長の発言及び謝罪記者会見、後任問題を連日報道していました。私も様々な格差、特に性格差が問題視されている今日、森氏の発言について国内外から様々な批判がされていることは当然と思います。コンプライアンス・コーポレートガバナンスとは直接関係がないかもしれませんが、今回のコラムは森氏の記者会見を中心に、問題点・疑問・背景、他の記者会見との比較等について私の感想をお話します。

 

1.森氏の記者会見等を巡る様々な動きについて

(1)何故、森氏は発言の報道がされた翌日に記者会見をしたのだろうか

⇒一般的には、事件・事故・失言がらみの記者会見は、出来る限り早く行うことが事態を収拾するベストの方法と言われますが、私は必ずしもそうは限らないと思います。事柄の内容、事態の推移、記者会見のタイミングやスタンスを検討した上で行うべきものであり、早くやればよいものでは無いと思います。とりあえず、謝罪文書を出して、それに対する反応を把握することも1つの方法です。文書は、記者会見と異なり、文案を慎重に練ることが出来、また一方的に出すものですので、質疑もありません。後日、記者会見を開く場合にも、それを引用することも出来るなどの利点があります。

では、森氏は、何故、拙速ともいえるタイミングで記者会見をしたのでしょうか。おそらく森氏は、そもそも、女性に関する自分の発言が差別に当たるとは考えておらず、むしろ、自分はこれまで女性の理解者で、女性の地位向上に理解を示してきたと考えていたのでしょう。従って、記者会見で謝罪をしつつも、自分の思いを説明すれば、事態はそれで収束すると考え、記者会見を行ったのだと思います。今回の自分の発言の重さについての認識の相違がその後の展開の根っこにあります。この問題は、森氏の発言に起因するものですから、森氏が真摯に謝罪に徹すれば、それで事態は収まったと私は思いますが、認識の相違がもろに出て、火に油を注ぐ結果となりました。

 

(2)何故会長職の辞任が必要と思わなかったのでしょうか。

⇒森氏は情勢を分析し、政治家としての長い経験から、この段階で総理、東京都知事、IOC会長、JOC、組織委員会が自分を解任する可能性は極めて低いと判断したと思います。森氏のこの結論は、記者会見前においては誤りがなかったと思います。しかし、誤算は記者会見の態度から謝罪は形だけで、自身の発言を本当は反省していないことが明らかになり、内外の女性を中心にした批判が想像以上に高まったことでしょう。それでも、森氏は解任・辞任は無いと考えていたと思いますが、彼の想定以上に菅政権・自民党は次々と難問を抱え、森氏を擁護する余力は無かったのです。また、バッハ会長も小池都知事も東京五輪を予定通り開催することが至上命題で、森氏の役割を彼が思うほどは重要視していなかった、これらが森氏の読み違いだったと思います。

当初は、関係者は森氏の謝罪を是として、辞任まで踏み込んだ発言はありませんでしたが、その後の国内外での批判の激しさを目の当たりにして、関係者は発言や会見に対する批判のトーンを高め、最終的には暗に森氏に辞任を求める立場に変わっていきます。ここ数年余り実例が無かったですが、久々に安易な謝罪記者会見の怖さを思いだしました。この点については、後ほど、好事例との比較等で改めてお話します。

 

(3)川渕氏はどうして会長になれなかったのでしょうか

⇒「高齢で男性は適当ではない」「正式就任の手続きを踏む前に、密室で森氏の指名によって後任が決まった」「就任前に抱負等をしゃべり過ぎた」等の理由が挙げられています。これらのことも影響したと思いますが、菅総理、小池都知事、組織委員会事務局等の関係者が川渕氏の個性に難色を示したというのが、一番の理由と私は思っています。川渕氏は、日本でサッカープロリーグがやっていけるかという懸念が多い中でJリーグを立ち上げ、今の隆盛をもたらしました。また、バスケットボール協会が苦境に立たされていた時に、会長を引き受け、再建をしました。常にトップとしての強烈な指導力を発揮し、自らが先頭に立って仕事をやっていくタイプの人です。しかし、東京五輪は開催まで5カ月足らず、コロナの状況次第ですが、開催へ向けての準備は組織委員会事務局等によって、着実に進められています。もはや組織委員会会長は、対外的な代表ではありますが、強力なリーダーシップを発揮されると、かえって状況が複雑になる恐れがある。関係者が川渕氏を排除した真の理由はここにあると私は見ています。その点、橋本聖子氏であれば川渕氏のような心配がないと関係者は考えたと思います。

 

2.東京五輪は予定通り開催されるでしょうか

日本及び世界のコロナの感染状況次第ですが、今回の組織員会会長を巡る国内外の関係者の動きを見ると、各関係者は予定通り今年の夏に開催したいという強い意欲を持っていることがはっきりしました。菅総理を始めとした与党関係者は、遅くとも今秋までに行われる衆議院議員選挙について、様々な不利な状況があることから、東京五輪を無事に開催したことを最大の看板としたいと思っています。また、小池都知事にしても、今年の7月の東京都議会議員選挙のことを考えています。前回は圧勝した都民ファーストの会ですが、今回の選挙は苦戦が予想されています。ここでも、東京五輪が予定通り開催されることは、選挙への大きな力となります。IOCのバッハ会長にとっても、アメリカのTV会社等のスポンサーの意向が最優先です。選挙のための五輪、スポンサー維持のための五輪という、本来、表には出てこないはずのことが、森氏の言動によって図らずも鮮明になりました。ここで森氏を退任させたことは、今年7月の五輪開催の可能性を高めたとも言えそうです。

 

3.森氏の謝罪会見は何故うまくいかなかったのでしょうか

(1)記者会見を行った理由等については1.で述べた通りです。すなわち、彼は本気で謝罪をするという覚悟無しに「なんとかうまくやり過ごそう」という態度で記者会見に臨みました。しかし、私的な発言に近い事柄を謝罪する場合、このようなやり方では事態をかえって悪化させます。これと好対照の謝罪記者会見としては、数年前の日大アメフト部員の違法ともいえるタックルに関する事件があります。事実、彼は、暴行傷害罪で書類送検されました。しかし、被害者家族を含めた多くの人の嘆願等もあり起訴猶予となり、今は、実業団の一流クラブで活躍しています。この結果をもたらしたのが、謝罪記者会見だったと思います。おそらく弁護士の適切な指導を受けたのでしょうが、彼は徹頭徹尾自分の行動を謝り続け、全ての責任は自分にあるとしました。監督やコーチの発言についても触れましたが、それが直接の原因だとは言いませんでした。もちろん、タックルをした相手やチーム等に対する謝罪も行ないました。そこで一気に世間の流れは、彼に対する批判から同情に変わり、批判の対象は監督・コーチ、大学組織に向けられました。もし彼が、監督やコーチの指示に従って、悪いとは知りつつやったのだと言ったならば、状況は違うものになっていたでしょう。個人の責任として謝罪するならばそれを徹底的にやる必要があります。

 

企業等の組織の事件・事故に関する記者会見は個人的なものより複雑です。森前会長のような記者会見にならないよう、企業にも的確な情勢判断が必要になります「世間をお騒がせし、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」という文言はよく使われます。一体、誰に向けて何を謝罪しているのか、はっきりしませんが、一応謝罪です。何を、どこまで謝罪するのかというのは、その後の法的な責任問題も絡んでくるだけに、慎重に対応する必要があります。とりあえず、事件・事故が生じたことを謝罪して、第三者による調査委員会を立ち上げて、その結果を踏まえて結論を出すというのが、最近の主流になっているようです。どんな問題でも、第三者委員会が結論を出せばそれでよいのか等この方式には私は、疑問を持っていますが、その議論は今後お話することにしたいと思います。

 

今年のテニスの全豪オープンで2度目の優勝を遂げた大坂なおみさんは、米国の黒人差別問題に対する抗議活動として、全米オープンで、決勝まで毎回、被害者となった黒人の名を書いたマスクを着用することによって、抗議の意を具体的に示しました。また今回の森氏の発言に対しても厳しく批判をしています。このような若者の積極的な活動が増えていくことが差別解消に役立つと私は期待をしています。

2017.02.13-22

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