リスクコミュニケーション TAKESHITA SANGYO

リスクコミュニケーション

何かに取り組むと、課題は次々に見えてきます。
-後編-

2019.01.29

対談

竹下産業株式会社 代表取締役 竹下敏史
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北良株式会社(岩手県北上市) 代表取締役 笠井健さん

笠井健さん

笠井健さん
北良株式会社 代表取締役・岩手電力株式会社 代表取締役

筑波大学卒業後外資系IT企業でシステムエンジニアを経験し、その後、父が経営する北良株式会社の後継者として、郷里の岩手県北上市に帰郷。

北良株式会社は家庭用・産業用・医療用のガス会社で、東日本大震災では当日から対応を開始し、在宅患者や基幹病院へ医療用ガスを届けることができた。

この経験から、さらに医療と防災に力をいれた会社づくりを進めており、それらの取組みは、2018年3月に中小企業庁が発行した「中小企業BCP支援ガイドブック」でも良き経営事例として紹介されている。

2017年に新たに設立した岩手電力株式会社も、電気料金の一部を地域の社会貢献活動(顧客が選べる6つの社会貢献プラン)につなげるユニークな電力会社として全国から注目されている。

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提案がだんだんすごくなっていく

  • 笠井

社員とのコミュニケーションといえば、「改善」もそうですね。

  • 竹下

業務改善の提案制度ですか?

  • 笠井

社員全員が毎月1件、業務改善に関する提案をすることになっています。

自分の提案を書いて貼りだしておくスペースがあるのですが、そこに私が見に行って「赤ペン先生」のようにコメントを記入します。「すごい!これ、すぐやろう」とか。

  • 竹下

でも、アイディアマンの笠井さんから見ると……。

  • 笠井

はい。正直、「これは自分のほうがいいアイディア持っているぞ」というときもあります(笑)。でも、人それぞれの知識や経験から考えだすというプロセスが大事なんです。

なので、もっと良い答えがあっても、まずは一度やらせてみる。毎回、誰かに答えをもらっていては、その人の気付きや成長につながりません。

  • 竹下

うーん、そこで手を出さないのはつらいですが……。

  • 笠井

「任せる」って簡単に言いますが、手は放すけど目を離したらダメなんです。失敗は必ずするものですから、その時はなんで失敗したか、一緒に見て検証する。ともかく、次に挑戦する気を失わせないようにしないといけない。

改善提案の紙に、赤ペンで「すごい!」って書いていると、提案もだんだんすごくなっていくんですよ。良いことも悪いことも繰り返せば上手くなる。量をやるなかで質が生まれてきます。質が上がってくると人は楽しくなってきて、自分自身をモチベートするようになってくるものです。

  • 竹下

なるほど。社内に定着していくのですね。

  • 笠井

「考える力」は、うちの会社の定義では「二つ以上のモノを組み合わせる」こと。つまり、問題に気付けることと、問題解決する力です。

そのためにはいろんな引き出しを持つことが必要なんです。

見えている課題をひとつひとつ

  • 竹下

今日は、朝礼から参加して、安全点検を見学させていただきました。皆さん、大きな声できびきびと、しかもなんとなく楽し気な雰囲気で動いていらっしゃったのが印象的でした。

  • 笠井

安全点検は毎月、日程は1年前から決めています。

  • 竹下

抜き打ちは?

  • 笠井

ありません。抜き打ちは社員のやる気を失わせます。それと、日程を決めておくと、その日にできなかったら言い訳できませんよね。

  • 竹下

そうですね。スーツにヒール姿の女性が、慣れた手つきでポータブル発電機を扱っているのを見て感心しました。

  • 笠井

発電機は全社員が扱います。点検日には交代で全員が非常用発電機のチェックをします。本社の電力は三重四重にバックアップがあり、給水も断水に備えて水源を3系統用意しています。

  • 竹下

その防災の取り組み、WEBでも拝見したのですが、とても力をいれていらっしゃいますね。

  • 笠井

そうですね。当社はガス会社として医療用、家庭医療用、産業用を取り扱っています。

病院のほかに、在宅の呼吸器患者さんなど1000人以上の命をささえています。大規模な災害時には酸素ボンベをはじめ、発電機を配布するなど人命救助の観点から様々な災害時対応をしなければなりません。

  • 竹下

発電機を配る?

  • 笠井

災害時には、3日分の燃料と一緒に非常用発電機を配送する仕組みを整えています。現在では補充用のエンジンオイルや工具など必要な備品を全て同梱したユニットを、28台配備しています。

また患者宅が停電になった場合に、自動的に本社に通知するシステムを開発し運用しています。

  • 竹下

地域の方々の命を守っているんですね。だからこそ会社も被災して業務を止めるわけにいかない。

……しかし、防災は社会の大きなニーズではありますが、すぐに売り上げアップにつながる事業ではありませんよね。

  • 笠井

そうです。でも私は利益にはふたつあると思っています。

ひとつが、今日明日の売り上げアップ。

もうひとつが地域社会の中での信用です。

  • 竹下

その通りですね。

  • 笠井

普通の会社は、なかなか防災に本気で取り組みません。だったら、わが社は突き詰めてやってやろうと思ったんです。

すでに、目の前に患者さんがたくさんいらっしゃるわけですから、その見えている課題を何とかしたい。

そして、そのノウハウが他の災害被災地の役に立つなら教えてあげよう、と。

  • 竹下

重要な社会貢献だと思うのですが、それは会社がある程度利益を出していないとできませんよね。

  • 笠井

もちろんです。よく「世のため人のため」と言いますが、私は、それを言うのは自分の会社がきちんと利益を出せるようになってからだと思っています。

CSRという言葉も、大切なのは価値観と中身です。「何を言っているか」ではなく、「何をしているか」ですね。

防災は、会社にとっても必要です。災害は非日常ですが、それに備えるのは日常です。日常を強くする。これは、中小企業にとっては一番の福利厚生だと思うんです。

  • 竹下

社員と家族の命が助かることですからね。

  • 笠井

日本の中小企業は大半が赤字です。納税と雇用をきちんとやっていれば、中小企業は十分に役割を果たしていると言っていい。まずは自社、自分のことをしっかりやる。

社会貢献はそれからですね。

  • 竹下

今後、どんな会社にしたいとお考えですか?

  • 笠井

うーん、実は会社のビジョンを語るの、苦手なんですよ。無いことは無いんだけど、正直、どうなるか社長も分からないと言っています。

大きなビジョンよりも自分たちが関わるお客様や地域のことをしっかり見て、感じて、自分たちがお役に立てることを磨いていくことかなと思います。どこの地方でも、どんな業種でも必ず「変化」があります。その変化の中に少し先の未来があるものです。

灯台下暗しですから足元をしっかり見る。どんなに高いところでも階段は一歩づつしか登れません。

  • 竹下

北良さんは「いい会社」として高い評価を得ていらっしゃいます。そのように呼ばれるために、どうすればよいのでしょうか?

  • 笠井

そういう評価をいただきますが、何を以て「いい会社」と言うのか、自分ではよくわかりません。が、少なくとも、そこで働いている人や行った仕事が「良い」と言われることは、とても大切なことです。

また、いい会社にすることは手段であって、目的ではないような気がします。

企業は社会やお客様の問題を解決することで対価を頂いています。取り組む課題やより質の高い解決策を提供することが大事かなと思います。

ビジョンとまでは言わなくとも、そこに目標を設定することが経営者の役割ですかね。

  • 竹下

目標設定ですね。頑張ります。今日はありがとうございました。

対話を終えて

月に一度の安全点検日に見学させていただくことになり、前日に北上駅前で1泊しました。

それを知った笠井社長は「その日はちょうど東京出張で、帰りに駅を通ります。一緒にご飯を食べましょう」と言って、地元のビールや野菜がおいしい店に連れて行ってくださいました。

そこでざっくばらんにお話しするうちに、すっかりお人柄に魅了されました。


翌日、本社をお訪ねして安全点検を見学した後、対談中に女性社員がお茶を出してくれました。

ちょうど人材育成の話題だったのですが、彼女に「どう?うちに入って自分は伸びたと思う?友達とかと飲んだときに、どう言われる?」と突然問いかける笠井社長。入社2年目だという女性社員は少しも慌てることなく、「ほかの人がやっていることが見えるのは勉強になりますね。改善の提案は毎月大変だねって言われますけど」と、笑顔ではきはきと答えてくれました。

会社の中に、言語と非言語のコミュニケーションが行き届いていて、それが会社全体の前向きで明るい雰囲気を作り出しているように感じました。


お忙しい中、見学と対談に応じてくださった笠井社長と北良株式会社の皆様に、心から感謝申し上げます。