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コラム 賢人の思考 ~銀行の現場で支店長として経験したこと、その4~
2022.12.17
2022.12.17
今回も八星 篤 先生に都市銀行支店長時代のエピソードを書いていただきました。私も業務や新規プロジェクトにおいてエクセルで作った「ガントチャート」で進捗管理や情報共有を行っています。業務の見える化を推進する上で、エクセルの「ガントチャート」は非常に役に立っています。また、部下が言っていることを鵜呑みにせず、マネジメント自ら直接顧客の声に耳を傾けることが重要であることも納得できます。八星先生の体験談は、マネジメントをされる方の問題解決に役立つと思いますので、ぜひ参考にされてください。
○著者プロフィール
つくだ社会科学研究所
代表 八星 篤(はちぼし あつし)氏
1972年 東京大学経済学部卒業
1972年 第一勧業銀行入行
1996年 広報部長
1997年 企画室長
1998年 横浜支店長
2000年 執行役員調査室長 兼 第一勧銀総合研究所専務取締役
2002年 みずほ銀行執行役員調査部長 兼 みずほ総合研究所専務取締役
同年 みずほ銀行退職
2003年 株式会社サカタのタネ監査役(社外)就任
2008年 株式会社サカタのタネ取締役(社外)就任
2013年 株式会社サカタのタネ取締役辞任
現在、危機管理、経済・金融等の講演・研修活動に従事 。なお、八星氏は高杉良著「金融腐食列島」シリーズの登場人物のモデルの一人と言われている(八星氏が第一勧業銀行総会屋事件時の広報部長時代がモデル)。
○テーマ
「銀行の現場で支店長として経験したこと、その4」
前回は①私の軽率な判断から、営業についての危機的な状況判断を誤り、今後2年半は毎期50億円の貸出が減り、収益が減ることに3カ月も気が付かなかったこと。②多くの職員は、これから2年半最低の業績が続き、自分たちの賞与も最低水準にとどまるということを知らなかったこと。③この状況を率直に話して、支店職員の理解と協力を求めたこと。④まずは、宝くじの販売に力を入れ大きな成果を挙げたことなどをお話しました。今回は10月から始まる来期に向けての布石をどのように打っていったか、その過程で何を感じたか等についてお話します。
まずは住宅ローンの増強です。横浜支店は従来、住宅ローンのような個人向け貸出は、法人中心の大店舗が積極的に取扱うものではないという意識があったようで、住宅ローンについての営業・事務体制が整備されていませんでした。住宅ローンは貸出に際してのチェックリストもあり、その通りにやれば誰でもできるように見えますが、営業の1つの柱として本格的に取り組むためには営業・事務の体制整備が不可欠です。また、住宅ローンに関わるクレームの対処には法人貸出しとは異なるノウハウが必要となります。
住宅ローンのお申込みについては、当時は、住宅の建設販売業者さんを通じたローン依頼が中心でしたが、それ以外にも、直接来店して申し込みされる方(横浜支店に給与振り込みの口座をお持ちの方が多かったです)、お取引先の役職員の方からの申し込み、お取引企業と提携ローンの契約をしているケースなど多彩でした。それぞれのケースによって、取り扱う手法やチェックするポイントは異なっています。例えば建設販売業者さんを通じたローン依頼については、申し込みをされるご本人はもちろんですが、建設販売業者さんについても、これまで、その業者さんとの間でトラブルが多発していないかなどのチェックが必要です。
営業体制の整備については、上大岡支店で様々な実践経験のある私が直接指示することにしました。事務体制の整備は営業体制整備より重要なのですが、残念ながら、横浜支店には、事務体制整備の中核となれる人材が見当たらず、本部に依頼して銀行関連子会社から、住宅ローンの取り扱いに習熟した方を派遣してもらい、事務体制の整備と支店職員の指導をお願いしました。体制の整備と職員の意識の高まりにより住宅ローンは順調に増加しました。ただ、私は、住宅ローンは推進を始めてから2-3年は順調に伸びるけれども、その後は伸びが鈍化し、貸出残高の現状維持すら難しくなることを上大岡の経験で知っていました。法人貸出しと異なり、住宅ローンは同じ貸出先から、再度借入の申し込みはありません。常に、新たな貸出先を求めていかなければなりません。また、住宅ローンは毎月、ボーナス月の返済があり、残高は減少していきます。預金金利が低い場合には、住宅ローンの繰り上げ返済をすることが最も有利な運用手段とも言われ、予定外の返済もあります。さらに、他の銀行からの低金利等の提示による借換攻勢も激しいです。こうした事情で、貸出残高の現状維持すら難かしくなるのですが、当時の本部からの目標は常に前期を上回る残高確保が求められます。これを何とか達成しようとすると、貸出し条件を緩くする(本部への申請が必要でしたが)だけでは間に合わず、どうしても、貸出残高増加を達成しようとすると、アパートローンやシェアハウス向けの高額な案件に頼るようになりがちです。
しかし、そもそも、アパートローン等は、住宅ローンとは全く質の違うローンですので、案件を持ち込んでくる不動産関係業者の財務内容や販売能力等のチェックを入念に行わないと、貸出しが不良債権化する危険性もあります。リスクを考えながら、慎重な対応をするのは当然なのですが、本部からの目標を何としても達成しようとすると、無理をしてしまいます。目標とリスクとのバランスを考えて支店運営することが支店長の最も重要な役割です(これも上大岡支店の副支店長が教えてくれたことですが)。話は離れますが、以前、スルガ銀行が法人貸出から個人貸出へのシフトを経営戦略として打ち出し実行しました。金融庁もこれを高く評価していましたが、私はこの戦略の危うさを上記の体験から感じていました。やはり、通常の住宅ローンだけでは、残高・収益の維持が難しくなり、一部のアパートローン等に傾斜して貸し出したため、大量の不良資産が生じ、経営不振に陥りました。個人取引に特化するという手法は可能だと思いますが、そのためには、店舗や人員の徹底的な合理化等が必要になります。戦略と言う名の画を描くことは簡単ですが、それを実施する上では、様々な観点からの検証・検討が必要です。
話は戻りますが、私は宝くじと住宅ローンだけで、必要な収益を稼ぐことは到底無理なことは分っていました。と言うより、あの手この手考えられることを、すべて実施しても、なお目標達成は相当に難しいと思っていましたが、支店長が何もせずに諦めれば、支店全体の士気は下がり、より状況は悪化すると思いました。先に述べたように、今期はもはや目標に遠く届かないことははっきりしていましたので、あくまで来期をターゲットにしていました。加えて、突然本部から連絡があり、来期の11月に本牧支店を横浜支店に統合して、本牧支店は出張所にすることが決定済みと知らされました。支店の統合は、上大岡支店の時に、洋光台支店を統合した経験があり、その大変さは十分にわかっていました。実際に本牧支店を統合した後、様々なことが起こりましたが、これは、別の機会にお話したいと思います。いずれにせよ、10月以降、本牧支店との統合に一定のエネルギーを割かなければならないことが必須となり、なおさら、今期の間に来期の具体的な営業方針を決めなければならないことがはっきりしました。
収益を稼ぐあるいは経費を減らす方策を求めて、個々の取引先への訪問(特に、社長あるいは経理の実権者と面談を目的としていました)、日誌等から得られる情報の見直しでタネを発掘することに努めました。この中からいくつかの具体策が浮かび上がってきましたが、私一人ですべてを行うことは不可能ですし、そもそも、私が知らないこと、気が付かないこともたくさんあるはずだと考えました。そこで通常、支店では9月末は半期決算の期末月なので、目標達成のために、営業担当は、外訪に駆けずり回るのですが、私は今期に限ってそれを止めることにしました。その代わりに、担当者ごとに担当者、課長、副支店長、私が1つの取引先の資料を基に、この取引先に対する来期及び今後の目標を決める時間を設けました。この検討会での目標事項は貸出の増強や不良債権の回収には限らず、社長等の個人資産の取り込み、外国為替関連取引のシェアアップ、経費削減(手数料の見直しあるいは事務負担の大きいものの改善等)、担当者の実質営業時間の捻出(例えば定例的な集金の見直し)等あらゆる項目について検討しました。担当者が管理しているすべての取引先について、様々な角度から検討していきましたので、相当に時間が掛かりましたが、担当者や課長からも活発な意見が出て、目標とすべき事項は想像以上にたくさん出てきました。
最終的に、1つの取引先について3から20位までの事項を今後の目標とすることを決めました。これまでは、本部から与えられた目標を各担当者に割り当て、その進行状況を毎週の営業会議で報告するというスタイルで目標管理が行われていました。しかし、本部から与えられたものでは無い自主的な目標が1つの取引先で3-20にわたったことから、この項目と進捗状況をどのように効率的に管理するか、私には良い考えが浮かびませんでした。すると、担当者の中にエクセルに詳しい人がいて「エクセルを使って管理すれば、比較的簡単に管理できる計表が作成できる。具体的には、私が計表を作り、関係者のパソコンに配布するので、担当者はこの計表に目標事項と毎月の進捗状況を書き込むようにする。その計表は、支店長以下がいつでも検索することが出来るので、状況の把握も簡単です」という案を出してくれました。
今思えば、ごく簡単な話だったのですが、当時の私のIT知識では、とても考えつかない事でした。この計表は単に目標管理だけでなく、様々なことに役立ちました。例えば、私がある取引先を訪問する時にも、この計表を事前に見て行けば、今、何をお願いしていて、どこまで進展しているかが一目瞭然ですので、効率的な外訪が可能になりました。毎週の営業会議は廃止しましたが、この方式を使うことによって、何をやるのかということが、以前よりも担当者に明確になり、かつ私を含めた管理者も足並みを揃えて目標達成に進んでいくことが出来るようになり、少しずつ業績は上向きになっていきました。さらに、この計表上でのやりとりを繰り返す中で、従来、支店で言い伝えられてきたことが、実は誤りであることが判明することもありました。
例えば、ある取引先は親会社がDKB(第一勧業銀行の略)メインなのですが「経理部長が横浜銀行出身のために、社長はDKBの借入を増やしたいと思っているが、経理部長の反対でそれが出来ない」という話題が出ました。私はそれを見て、どこかおかしいと思いました。私の印象では、横浜銀行出身とは言え、経理部長は、社長にそれ程強い進言をするタイプではないと思いましたし、一方で、社長は相当個性が強い人で、易々と部長の言うことに従うとも思えなかったのです。それに、横浜銀行とDKBとの借入額にはかなりの開きがあり、多少DKBからの借入残高が増えても、メインが交代するという状況には程遠かったこともありました。私は、経理部長に意向を聞くのが一番早いと思い、率直に聞いてみました。話は全く逆でした。部長はもう少しDKBからの借入れを増やして、サブ銀行としての立場をはっきりさせた方が会社にとってはプラスと思い、何度か社長に進言したが、OKにはならなかったということでした。私が色々聞いてみると、社長は親会社に居た時、住宅ローンの借入に関して、DKBの対応に不満を持っていたようです。ただ、それをDKBの借入を増やさない理由とは出来ないので、横浜支店の担当者には「横浜銀行出身の経理部長が反対するので」と言っていたようです。その後、この会社が海外で設備投資をするという話を経理部長からいち早く教えてもらい、外国為替面で優遇する等で、首尾よくこの案件で貸し出しを増やすことに成功しました。
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竹下産業の広報部からのレポートです!
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