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コラム 賢人の思考 ~組織文化について考える~
2021.04.30
2021.04.30
石川雄一先生に「組織文化について考える」というテーマでコラムを書いてもらいました。企業の文化とかアイデンティティと言われるのは何なのか?何から生まれるのか?について、このコラムは非常に勉強になります。
良き組織のつくり方のヒントになると思いますので、ご一読いただけますと幸いです。
【著者】
石川 雄一 氏
【プロフィール】
慶應義塾大学経済学部卒業後、東京海上火災保険株式会社(現:東京海上日動火災保険㈱)に入社。主に国内営業畑を歩み、近畿業務推進部長、札幌中央支店長などを歴任
55歳で自動車メーカー保険代理店の常務取締役となり、経営と人材開発に尽力
退任後、大型自動車メーカー関連会社参与を経て退職
2017年に立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科入学し、2019年3月に修士課程修了。MBA(経営学修士・社会デザイン学)
2020年4月からは新たに立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士課程に在籍し、企業組織に関する研究の傍ら、セミナー講師など精力的に活動している
テーマ:組織文化について考える
筆者が30年余り勤めていた会社は、三菱グループの一員でした。一昔前には「人の三井」、「組織の三菱」と言われていましたが、近年経営統合が進んだために、旧財閥色は少し薄れたかもしれません。
会社関連のパーティや宴会の幹事は、三菱グループのキリンビールを手配することが当たり前でした。もしテーブルに他銘柄のビールが置いてあると、気付いた上司から叱責を受け、即座にキリンに変更するよう店に頼まねばならないのですが、これは笑い話ではないのです。いつの間にか、グループ企業を応援しようという暗黙の習慣が染みついていました。都市対抗野球大会が毎年応援合戦で盛り上がりますが、こうした愛社精神はどのようにして育まれるのでしょうか。また「愛社」とは会社の何を愛するのでしょうか。
幼稚園(保育園)、小学校、中学校、高校、大学を卒業して就職するまでの各段階で、それぞれ新しい環境に慣れること、これを「社会化」と呼びます。進学などで新しい社会に加わるときには、誰もがその環境に順応しなければなりません。
学校を出て就職をすると、入社式やその後の新入社員研修で、徹底的に会社の一員になるための訓練を受けます。企業に限らず組織に所属すれば必ず行われること、これを「組織社会化」といいます。サラリーマンにとっては当たり前のことですが、これが人生に大きな影響を与えてきたと考えられます。
新入社員は会社によって多少の差はあっても、社長の訓示や企業理念や社訓、社史、組織の大まかな業務分担などのレクチャーを受け、社内の暗黙のルールを教えられます。例えば社内での肩書や上司の呼び方、組織図やそのルール(業務上の報告や相談は、直属上司を飛び越して上に直接してはいけないとか)、年間のスケジュールや行事予定などなど。社歌を覚えたり、声をそろえて社訓を唱えたり、会社の扱う商品やサービスについてのレクチャーもあるでしょう。さらにコンプライアンス教育、セクハラ、パワハラなどの報告ルールなど・・・こうして新入社員は、その会社の社員の色に染められるわけです。やがて愛社精神が育まれ、まさにメンバーシップが形成されるのです。
次に配属が決まると、その配属先での組織社会化が待っています。重ねて行われる当該部所での社会化ですが、従来これは主に先輩社員によるOJTで行われてきました。リーダー、先輩社員、年の近い同僚、女子社員、それぞれの立場でそれぞれのやり方で組織社会化が行われます。古い会社なら、歴代のメンバーが形成した独特の文化があります。いわばその「暗黙知」をいち早く身につけることが、その組織での居心地を決定づけることになります。組織の色に染まることが必要なのです。(近年組織がフラット化して、先輩や同僚によるOJTが機能しにくいという問題が発生していますが、それについて今回は触れません。)こうして長年かけて育まれてきたのが、組織風土とか組織文化と言われる目に見えない、いわばその企業のアイデンティです。日本には社歴が100年を超える企業が3万社もあるそうです。多くの企業が新卒一括採用定年制という雇用システムをとってきました。メンバーシップ型雇用と呼ばれるものです。その効用はまさに組織文化の維持でした。
むかし対等合併したAB銀行の例では、頭取以下の人事は旧A行と旧B行の「たすき掛け」が長く維持されました。支店長も交代で旧AとB出身者が交互に座るという人事が続けられたのです。このやり方は実に20年近く持続し、新AB銀行に入行した行員が大半を占め、彼らが中核を担うまで残っていたとのことです。
ではA、B銀行それぞれの組織文化はどうなったのでしょうか。合併後の新しい基準で社内ルールや手続き方法などは変更されました。一方に片寄せしたわけではなく、新銀行の企業理念や新しい文化を創ろうという方針は打ち出されたようです。ならば、それぞれの数十年にわたる伝統や組織風土はどこに消えたのでしょうか。外からは見えないのですが、中堅以上の行員の気持ちの内には、自分の出身行のアイデンティティが生涯消えずに残っていたと思います。
近年グローバル化の波が押し寄せ、イノベーションや多角化のスピードアップが求められるようになると、新卒者を自前で一から育てていては間に合わない事態になりました。そこで求められるのがジョブ型雇用、職務記述書に基づく中途採用です。すでに多くの大企業でもジョブ型の中途採用が行われています。中途採用者には「組織再社会化」が行われるわけですが、企業、本人ともに簡単なことではないようです。新卒採用を堅持しながら中途採用を推進すると、その企業の組織文化はどう変化するのだろうか、ここに筆者は大変興味を持って見ています。
日本の伝統的な企業は、こうした大きな変化に対応していかなければなりません。多様性こそイノベーションの源泉といわれ、これを受け入れずに企業の発展どころか生き残りすら困難な時代です。では国籍、人種、性別などの違いを受け入れ、M&Aや合併を経ていくと、企業文化はどう変化するのか、あるいは変化しないのか・・そもそも、組織風土とか組織文化というものは本当に存在したのだろうか。守るべきものだったのか。永年そこに在ると思っていたものは単なる慣習に過ぎず、実は虚像だったのかもしれません。
ケネス・ガーゲンは言います。
「つまるところ組織は生き物なのである。機械というよりも 絶え間なく続く大量の会話の海である」[1]。
そこにあると思っていた現実は、実は人と人との対話の中から生まれているのです。ならば組織文化とは、社員そのものであり、一人ひとりのこころの中にだけ存在していたものではありませんか。
[1] ケネス・ガーゲン『ダイアローグ・マネジメント』2015、ディスカヴァー・トゥエンティワン
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