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コラム 賢人の思考 ~ 現代版「百姓」のリアル その1 ~
2025.08.25
2025.08.25
横浜という大都会で江戸時代から16代つづく農園を経営される金子栄治郎さんに『現代版「百姓」のリアル』というテーマでこれからコラムを書いていただきます。
温故知新の精神で、我が国の農業のこれからのカタチをデザインされている頭脳明晰で行動力のある人物です。
特に金子さんが講演などでよく話される「弱い紐帯の強み」については、みなさんの人生のヒントになると思いますので、ぜひコラムを読んでみてください。
Universal Agriculture Support 合同会社 代表社員
キャリアコンサルタント
都会である横浜市青葉区に農地2ヘクタールある16代つづく金子農園の後継者。
2004年から家業に入って10年間イチゴ栽培を行い、神奈川県いちご連合会品評会にて2010年いちご連会長賞、2012年神奈川県議会議長賞受賞。
現在は農業や農福連携などのコンサルタントとして活躍する傍ら、自社農園でミニトマト「みのりっち」など、様々な野菜や果実の半自動管理や知的障碍者の人たちと一緒に収穫作業を行う農福連携を実践中。
「百姓」の定義と私の生き方(16代続く家の長男として・パラレルキャリア・多動・キャリアコンサルタント・やっている仕事の頭出し・他責ではなく自責のマインド・家庭とのバランス・積極的公私混同・農業のベクトルに繋がると自分が判断したものはやる・ピボットをイメージした仕事づくり
①「初めまして!」
皆様、初めまして。本日から、こちらのコラムを担当させていただきます、Universal Agriculture Support 合同会社の代表社員をしております金子栄治郎です。弊社は、農業とコンサルタント業で事業展開をしています。よろしくお願いいたします。
今日から書かせていただくコラムのテーマを<現代版「百姓」のリアル>と決めました。理由は、現代社会において「専業化」が色々な分野で進んだ結果、日本社会において専門性同士の利害がぶつかり合い、折り合いがつかないケースが見受けられます。私が考える解決策のひとつとして、「百姓」のように専門性のなかに多様性を加えていくような考え方と働き方から学ぶことがあるのではないか?という仮説を自身で立てたからです。
今回のテーマに含まれている言葉、「百姓」の語源について少し説明させてください。原義としての「百姓」はもともと中国由来で「多くの姓=さまざまな人民」という意味でした。これは公式文書や歴史記録でも確認されています。 民間語源:「百の仕事をする」。日本では、特に農村社会において農民が農作業以外にも多種多様な仕事を担っていたことから、「百(多く)の職能を持つ」「農作業、建築、大工、漁、草刈り、炭焼き、染め物…何でもやる」という事実に基づき、「百姓=百の仕事をする人」という民間語源的な解釈が広まったのです。この意味は民俗学や農村文化を語るうえでは非常に価値があり、「農民の多才さ・たくましさ」を表す表現として、現代でも時に好意的に使われます。「百の仕事をする人」という意味は語源的な正解ではないですが、日本の農民の実態を反映した後付けの解釈(民間語源)として根強く語り継がれています。したがって、この解釈も文化的には大切な意味を持っています。
現代において、農業という仕事は、「理科」「化学」「数学」「工学」「情報」「経済」「法律」「環境」「社会学」など、複数の学問が交差する実践的な総合科学の場です。「百姓が百の仕事をこなす」と言われたように、現代の農業者も多様な知識とスキルを組み合わせて日々の営農にあたっています。
人口減少に伴い農業以外の業種でも「多能工化」*が進められていくと考えます。
*多能工化とは、一人の作業者が複数の業務や作業工程をこなせるようになることを指します。製造業やサービス業を中心に、現場の柔軟性や生産性を高めるために導入されています。たとえば製造業では、組立・検査・梱包などを一人で対応できるようにすることで、人手不足や生産変動への対応が可能になります。また、業務の属人化を防ぎ、社員のスキル向上やモチベーション向上にもつながります。一方で、教育コストや習得時間がかかる点、スキルの偏りによって効率が下がるリスクもあるため、適切な計画と管理が重要です。最近では、デジタル技術と連携した多能工化や、障害者・高齢者雇用への応用も進められており、持続可能な現場づくりの鍵として注目されています。
②「農家の長男」というキャリア
今回は私の生き方について書きます。私は16代続く農家の長男です。生まれた時から「家」を継ぐというレールが敷かれていました。「家」を継ぐということは、自分の人生の大部分を「家」に捧げるということを意味しています。少なくとも、私の祖父や父親はそのような生き方をしていました。祖父は大正時代の生まれでしたので「家制度」の考え方が色濃く残っていました。「家制度」とは、明治時代に始まり戦後まで続いた、日本独自の家族制度です。戸主(主に長男)が家族を代表し、財産や婚姻を管理し、「家の存続」を最優先にする制度でした。財産は長男が継ぎ、嫁や婿も家に入る形で取り込まれました。1947年の民法改正により廃止されました。地域によっては、未だにこの「家制度」によって縛られている方々も多いと思います。農業という職業は、「家」と「農地」に縛られます。
次に私の個性をお話します。母親からは「落ち着きがない」「じっとしていなさい」「飽きっぽい」「忘れ物と落し物が多い」とマイナスの言葉がけをされ続けてきました。しかし、30代でご縁をいただいた日本でも有数の規模を誇る社会福祉法人を1代で築かれた理事長に「君は多動だね。私も多動だよ。多動の行動力が世界を変える原動力になるんだ。」と生まれて初めて自分の個性に対してプラスの言葉がけをしていただき、私のマインドは母親の言葉による呪縛から解き放たれました。当時、社会福祉法人職員の研修の一部を担当させていただいていたこともあり「支援員の支援をする人がいないので自分がなろう」と思い、国家資格キャリアコンサルタントの取得に繋がりました。資格取得で一番良かったと感じていることは「自己理解が深まったこと」「傾聴スキルが磨けたこと」です。自己理解が深まったことで自分の個性を俯瞰してみることができるようになり、得手・不得手を明確にすることができました。言葉の変換により私は「行動力」と「個性」で差別化を図る戦略をとることにしました。あともう一人、私のメンターとの出会いも貴重でした。30代中盤に差し掛かり、3人目の子どもが産まれ妻にも余裕がない状況で、自分の個性である「行動力・世話焼き・頑張り屋」が裏目に出て、お金にならない仕事(主にボランティア活動)に自分の時間が削られ、自分の事業もピンチになっていた時に、あるセミナーの講師と生徒という関係で出会いました。この時メンターから言われた言葉は、「仕事に優先順位をつけましょう。その際に自分じゃなければできない仕事はどのくらいありますか?」「他の人ができる仕事は、他の人に任せて大丈夫ですよ。」と言っていただき、本当に限界まで頑張っていたので肩の荷が少し下りた気がして泣きました。この経験を通じて「仕事の再現性」を意識するようになりました。
この二人との出会いが、私のキャリア形成に大きな影響を与えました。
皆さんにはどのようなご経験がありますか?
③「無形資産」
私はキャリアコンサルタントという国家資格を持っています。学習の過程で「ライフキャリアレインボー」という考え方を学びました。人間は加齢とともに色々な役割が増えたり減ったりするという考え方です。個人の人生において、「子ども」「学生」「余暇を楽しむ人」「市民」「職業人」「配偶者」「家庭人」という役割をどのくらいの比率で配分し生きていくのかを可視化することができます。
農業という職業は、天候にとても左右されるのでスケジュールが変更になることもしばしばです。子どもが小さいときはイチゴを栽培しており、イチゴの苗作りも自分で行っていたので、原則として「晴れている日は水やりがあるからお出かけ禁止」でした。でも、かわいい子どもに申し訳ないという想いから、仕事と家庭を完全に切り離すことがなかなか難しいのであれば、積極的に「公私混同」してしまえ!という考えに至りました。これまでは「職業人」の役割が終わってから「家庭人」になっていたので、子どもたちが私の仕事を見ることもありませんでした。以降、ボランティア活動にも子どもや妻と参加するようになりました。はじめのうちは、色々と小言を言ってくる人もいましたが、「そういうことをいう人がいる活動は、私が求めている活動ではない」と割り切り、理解のある人たちと一緒に活動できるものに絞っていきました。子どもたちと一緒に参加している活動で主なものには、私の父親が師匠をしている「平川神社囃子保存会」と東日本大震災以降に女川の漁業を支援しようということで始まった「愛と勇気とサンマ実行委員会」があります。このふたつの活動は子どもたちも成長させてくれました。母校の地元小学校のPTA副会長2年、会長1年を務めましたが学校の授業だけでなく地域での方々とのふれあいや、まったく関係性のない地域でのボランティア活動などお金にはならないですが、子どもたちの中には「無形資産貯金」として積みあがっているように感じます。
皆さんは「無形資産」という言葉をご存じでしょうか? 会計や経営の文脈で使用する場合、無形資産は形のない経済的価値(例:特許、商標、ソフトウェア)であり、有形資産は物理的な形がある資産(例:建物、機械、車両)です。どちらも将来の利益を生み出す点では共通していますが、「見えるかどうか」が最大の違いです。私はここに「人脈」も「無形資産」に入ると考えています。
経営学者ピーター・ドラッカーが提唱した概念に「パラレルキャリア」があります。本業を続けながら、別の仕事や活動を並行して行う働き方です。収入の有無は問わず、ボランティアや副業、趣味の延長も含まれます。自己成長や社会貢献を目的とすることが多く、働き方の多様化に伴って注目されています。私はまさにこの「パラレルキャリア」を実践しています。具体的には、農業経営を行いながら2009年から2025年で3367名の方とお会いしました。営業職の方と比べれば少ないと思いますが210名/年のペースです。いわゆる農家という仕事は土着性が強い職業のため、自分から意識して行動しない限り、色々な人と会う機会はそう多くありません。私は資格を取得するたびに他業種の人との飲み会を幹事として企画し取りまとめを行ってきました。他業種の人と交流をしていくうちに自分が従事している「農業」という仕事について客観的に見ることができるようになりました。農業者とばかりいると、いつの間にかバイアスができてしまいます。他業種にも同じことが言えると思います。「無形資産」は未来のキャリアへの種まきとも言えると思います。
「弱い紐帯の強み」という考え方があります。アメリカの社会学者マーク・グラノヴェッターが1973年に提唱した社会理論で、人と人とのあまり親密でない関係、いわゆる「知人」や「顔見知り」といった関係性が、仕事のチャンスや新しい情報を得る上で強い力を発揮するという考え方です。私たちはつい、親しい友人や家族など信頼できる人(=強い紐帯)との関係を重視しがちですが、実際には彼らは自分と同じような情報圏にいるため、得られる情報が重複しやすくなります。一方、弱い紐帯でつながった知人は、自分とは異なる職場、業界、コミュニティに属しており、自分のネットワークでは得られない情報や機会をもたらしてくれます。たとえば、転職先を見つけたきっかけが昔の同級生だったり、SNSでつながっている程度の人から新規ビジネスの話が来たりするのは、この弱い紐帯の力によるものです。現代のようにネットワーク社会が広がる中で、多様な人とゆるやかにつながっておくことが、思いがけないチャンスにつながる可能性を高めることができます。
色んな人と繋がってみましょう!
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