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コラム 賢人の思考  〜 お金の使い方 〜

賢人の思考

 

今回は、石川雄一氏に昨今の物価高騰を背景に消費者の視点から、お金の使い方についてコラムをお寄せいただきました。

物価高騰の中で高級志向の商品が売り出される理由、そもそもお金の価値とは何か。賢い消費者になるためのヒントを得る機会となれば幸いです。

石川 雄一 氏

慶應義塾大学経済学部卒業後、東京海上火災保険株式会社(現:東京海上日動火災保険㈱)に入社。主に国内営業畑を歩み、近畿業務推進部長、札幌中央支店長などを歴任。55歳で自動車メーカー保険代理店の常務取締役となり、経営と人材開発に尽力。退任後、大型自動車メーカー関連会社参与を経て退職

2017年に立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科入学し、2019年3月に修士課程修了。MBA(経営学修士・社会デザイン学)

現在立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士課程に在籍し、企業組織に関する研究の傍ら、セミナー講師など精力的に活動している

テーマ  〜 お金の使い方 〜

コロナ明けから徐々に動き出した消費者物価だが、今年に入って一気に加速がつき、10月からの値上げ品目は3024品目(帝国データバンク)にも上るという。円安の影響は数年来続いているのだが、賃上げ圧力や米騒動など様々な理由が登場し、消費者もやむなしという世論が形成された。多くの企業等の賃上げは、ふつう新年度に年1回実施されるから、とてもこの値上がりをカバーしきれない。上手な消費が不可欠になったといえるだろう。そこで今回はお金の使い方を考えてみたい。

 

新米の価格はどうやら昨年の倍近い水準になりそうだ。今では欠かせないコンビニおにぎりの値段は大きく上昇した。小麦は輸入に頼っているから、円安で大きく上昇し、パンなど小麦製品の値上がりは必至であった。

おにぎり市場を見てみよう。数年前まではコンビニおにぎりが手軽なランチとして定着していた。そこに徐々におにぎり専門店が参入してきた。コンビニとは一味違った工夫がなされ、具の種類や質の良い高級おにぎりが売られるようになった。そうすると、おにぎり屋という業態が自立できる市場となり、多数の店が工夫を凝らして競争するようになった。100円そこそこだったはずのおにぎりは今や1個300円になっている。

 

パンはどうだろう。これもYパンのような大手が、食パンなど日用のパン市場を抑えてきた。デパ地下のパン屋は、そのブランド価値で倍の値付けをしても購入する層が存在していた。ところが、値上がりの中で起こったのは、コンビニにおいても高級パンやサンドウィッチのような加工パンの進出だった。

 

おにぎりとパンの例を並べたが、ほかにも同様の動きを見ることができるだろう。要約すれば、値上げを機に、品質や品目の改革を行い、値上がり感を薄める高級感の醸成である。同じものの値付けを上げるよりも、抵抗感が薄まるという戦略である。

 

そうした中で今年の酷暑をバックアップとした商品がある。それが高級かき氷である。かき氷といえばせいぜい、氷ミルクや氷小豆が少し高いというイメージだった。しかし近年のかき氷は、氷そのものの違いや、かき方の工夫(機械の改良)などまで付加価値をつけ、さらにパフェの延長にあるようなデコレーションを加えた高級品となった。かき氷が2000円超えることなどひと昔はあり得なかっただろう。

 

食事よりも高いスウィーツが当たり前の時代になっていることに抵抗はないのだろうか。

牛丼は500円だが、○○パフェは2000円(千疋屋に行けばもっと高いメニューが拝める)、不思議に感じないのだろうか。なぜこれが市場に定着したのか、考えてみよう。

 

お金の価値とは何だろうか。

1万円札そのものには何の価値もない。これを何かのものに変換することで価値が生まれる。その価値を認めるのは誰だろうか考えてほしい。本来それは、お金を出すあなたである。あなたがその物にそれだけの価値があると判断したのである。判断した理由は何だろう。スウィーツなら驚くほどに美味しい、今までより4倍も?

 

説明するまでもないだろう、SNS映えすることが重要なのではないか、他に先んじて自慢することができるか、「いいね」をたくさんもらうこと、人を驚かせることに喜びを見出す、友人を出し抜く競争である。そのものの価値ではなく、他者からの羨望や驚きを買うのである。承認欲求を満たすために、売り手はそこに刺さるように工夫を重ねなければ生き残れない。タピオカブームはどこに行った?

 

さて、あなたの収入は、2000円のかき氷を気安く食べるほどに増えたのだろうか。

頑張った自分へのご褒美として、それだけの価値があるのですか?

値上がりラッシュの中、今一度冷静になってほしい。お金の使い方を考えたほうが良い。その価値のあるものに使ってほしい。どうすればよいか。

 

「欲しいものを買おう。必要なものは買わない」[1]

 

よく考え、自分にとって価値があり、本当に欲しいもの、それは値段を見ないでも買ったらよい(よく考えて、安易に借金してはいけません)。

しかし、これも必要かな、という動機で買ってはいけない。本当に欲しいものだったら、中古品市場がこんなに流行るわけがない。人の欲を掻き立てるために市場経済が作りだした虚構を、見破る賢い消費者になって欲しい。

 

しかし、真の問題は、本当に欲しいものは何なのか、である。

 

[1] 森博嗣『お金の減らし方』2020、SBクリエイティブ

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