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テーマ ~ 株式会社という「知恵の器」① ~

今回初登場となる京都大学経営管理大学院 特命教授 加藤晃氏に、「株式会社という『知恵の器』」というテーマでコラムをご執筆いただきました。

株式会社の成り立ちからその意義について、皆さまにも改めて考える機会になれば幸いです。

執筆者プロフィール 加藤 晃 / Akira Kato

京都大学経営管理大学院 特命教授

東京理科大学大学院 教授を経て嘱託教授

 

防衛大学校(国際関係論)卒

青山学院大学大学院博士後期課程修了 博士(経営管理)

元AIU保険会社 部長/元AIGインシュアランスサービス 代表取締役

経済産業省ISO/TC322国内委員、日本経済新聞社 機関投資家レポートアワード審査員

専門:経営戦略、情報開示

テーマ ~ 株式会社という「知恵の器」① ~

はじめまして、加藤晃と申します。大学で社会人教育に携わっている実務家教員です。賢人とは言えませんが、今回このような機会を頂きましたので、私なりの視点で考えを綴ってみたいと思います。

 

何がそんなに凄いのか?

株式会社は素晴らしい発明だと思います。『えっ~?日本には中小零細企業も含めて約250万社もあるのに、何がそんなに凄いの?』と思われる方もいるかもしれません。 現代社会において、株式会社という制度はあまりに当たり前の存在となっていますね。でも、その仕組みの本質を理解している人は、意外と少ないのではないでしょうか。株式会社とは、単なる「会社の形態」ではありません。それは、リスクとビジネスの可能性を両立させるために人類が編み出した、極めて洗練された「知恵の器」なのです。

 

そもそも、事業を始めるには資金が必要です。小さな商いであれば自己資金で賄えるかもしれませんが、社会に大きなインパクトを与えるような事業には、莫大な資本が必要となります。古くは、鉄道、治水やダム建設。近年では、バイオ医薬、宇宙開発、再生可能エネルギー、そして人工知能(AI)・・・。これらは一人の資産家が単独で賄える規模ではないでしょう。そこで登場するのが「株式」という仕組みなのです。多くの人から(少しずつ)資金を集め、その見返りとして「株式」という持分を渡します。出資者は会社の所有者となりますが、万一事業に失敗して会社が負債を負っても、責任は出資額の範囲に限定されます。これが「有限責任」という考え方です。つまり、最悪でも株の価値がゼロになるだけで、個人の財産まで差し押さえられることはないのです。

 

この仕組みがあるからこそ、人々は安心して株を買うことで資金を提供し、企業はその資金をもとにより大きな挑戦に踏み出すことができるのです。株式会社は、リスクを分散しながら社会全体の資本を動員するための装置なのです。(ところが、日本の銀行は中小企業への融資に際して、オーナー社長に個人保証を求めることがあります。本来、リスクの程度は金利に反映されるはずなので、フェアな商取引なのか疑問が残ります。)

 

資本と経営の分離

この制度の意義は、単なる資金調達にとどまりません。株式会社は、資本と経営を分離することで、「専門性」と「ガバナンス」を両立させます。株主は資本を提供し、起業家/経営者はその資本を活用して事業を興し、運営します。両者の関係は、信頼と監視のバランスの上に成り立っています。企業規模が大きくなればなる程、プロの経営者が求められ、取締役会、株主総会、情報開示といった仕組みは、まさにこのバランスを保つための知恵の結晶なのです。(なお、教科書的には自由譲渡性、配当を受け取る権利、議決権も株式の特徴ではありますが、テーマから外れるのでここでは触れません。)

 

株式会社のミニ歴史

株式会社の原型は17世紀のオランダ東インド会社に遡ります(注1)。同時期、オランダではチューリップの球根価格が異常に高騰し、世界初のバブル経済「チューリップ・バブル」が発生。投機の危うさと資本主義の光と影を象徴する事件となりました。第二次産業革命が進むと、鉄道や重工業など大規模な資本を要する産業が台頭し、株式会社のスケールも飛躍的に拡大。国家や社会の枠組みを超えた経済活動が加速する中、企業の責任やガバナンスの重要性も増していきました。海南島事件のように、企業活動が国際政治に影響を及ぼす事例、また、日本でも大気汚染や水質汚濁などの公害を引き起こしました。株式会社は単なる経済主体を超えた存在となっていったことは否定できないと思います。

 

注1:株式会社の起源について学生に問うと、異口同音にイギリス東インド会社との答えが返ってきますが、正解はオランダ東インド会社です。なぜ、どう違うのか?

興味のある方は、平川克美(2010)『株式会社の世界史』東洋経済新報社 pp.40-46をご覧ください。

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