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テーマ 原因ではなく目的を考える

賢人の思考

石川 雄一さんに「原因ではなく目的を考える」というテーマでコラムを書いていただきました。

 

世界三大心理学者はユング、フロイト、アドラーと言われていますが、ユングとフロイトが現在の行動や精神的問題は過去の経験やトラウマ(原因)によって引き起こされるとした「原因論」を提唱したのに対し、アドラーは人の行動や感情は過去の原因によってではなく、未来の目的を達成するために自ら選択しているという考えだとアドラー心理学の本で読んだことがあります。

 

私たちの行動や感情もある種の目的によって無認知の中で引き起こされているのかもしれません。ぜひコラムを読んでみてください。

【著者】 石川 雄一 氏

慶應義塾大学経済学部卒業後、東京海上火災保険株式会社(現:東京海上日動火災保険㈱)に入社。主に国内営業畑を歩み、近畿業務推進部長、札幌中央支店長などを歴任。55歳で自動車メーカー保険代理店の常務取締役となり、経営と人材開発に尽力。退任後、大型自動車メーカー関連会社参与を経て退職

2017年に立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科入学し、2019年3月に修士課程修了。MBA(経営学修士・社会デザイン学)

現在立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士課程に在籍し、企業組織に関する研究の傍ら、セミナー講師など精力的に活動している

 

テーマ 原因ではなく目的を考える

赤ちゃんの泣き声をAIが解析するアプリをご存じだろうか。大量の泣き声データをAIに記憶させ、眠い、おなかがすいた、おむつが濡れた、などその原因を分析する。それに対処の仕方を教えてくれるので、かなりの率で泣かなくなるレベルに達したらしい。赤ちゃんは五感をフル活用して周りの世界を認識していく。数か月をかけて知恵をつけていく。言葉を覚えるまでは、泣くことによって意思を伝えようとする。1歳を過ぎればかなりの意思が出来上がるらしい。

 

子供が泣くことは意思表示である。親は泣いている原因は何か、どんな理由があるのかと考える。しかし見方を変えて、理由ではなく、泣く目的は何か、と考えると対処方法が見えることがある。お母さんに抱っこしてほしいだけかも知れない。泣いたらその目的が叶うから。

 

だれかを怒らせてしまった。怒る理由は何か、原因はなにかと考える。それがわかれば対処できる。しかしそうだろうか。なぜ怒っているのか、何に怒っているのか。きっかけはいくつかあったのかもしれない。しかし、それだけなのだろうか。積もり積もった何かが爆発したのかもしれない。原因はいくつもあるのかもしれない。見方を変えてみよう、怒ることの目的は何なのか。誰かの注目を集めるためか。自分の存在感を示したいのか。いやあなたの対応を是正してほしいのか。理由と目的は必ずしも一致していない。理由を考えていては、その場しのぎの対応になってしまうかもしれない。解決には怒りの目的を知らねばならない。怒る目的を知り、それに沿った対応が解決を生む。しかし我々はまず理由を考えてしまう。アドラーの目的論は面白い。

 

社会は人でできている。人間関係がすべてである。人間の行動は計り知れない。社会で起きている課題や問題は、すべて人間関係から生じているといっても過言ではない。人間関係とは感情である。コミュニケーションの難しさは理屈を超えた感情が人の行動を促しているからである。それは、誰でも知っていることだ。

 

カスハラが大きな社会問題になっている。社員の対応が悪いと苦情をしつこく申し立てる。上司が出て行ってお詫びをいう。社員教育がなっていない、どうしてくれる。金で解決できる相手だったら、この辺で収まるかもしれない。目的は金だから。しかし、しつこく引き下がらない相手は「責任者を出せ」と怒鳴るから、所長が出ていかねばならない。同じ苦情を聞き、ひたすら頭を下げる。日本の従来の接客業にはこのようなベースがあった。気が済んだら、終わるだろうという。しかし最近のカスハラはそう簡単な問題ではないようだ。カスタマーが怒っている理由や原因を考えても簡単には理解できないことがある。

 

原因はきっかけでしかない。それを取り除いてほしいわけではない。怒り、怒鳴り、しつこく攻める、そのこと自体が目的なのだから。そして、自分より地位の高い人間に頭を下げさせることが重要だ。弱い人間ほど、その傾向は強くなる。承認欲求が満たされることの少ない人だ。そういう人は、ちょっとしたきっかけを探している。SNSで発生しているのは大体これだ。他者の中に少しのほころびを発見する能力は磨かれる。

 

人間関係はこうした感情の交換に満ちている。最も難しいのは、例えば夫婦関係だろう。妻が怒っているが、原因がはっきりしない。あれかこれか、身に覚えのあることを思い出し考える。好きなものを買ってあげれば一時的に収まることもあるだろう。買ってもらうことが目的ならば。しかし、大体はそんな簡単な理由ではない。長年の積み重ね、少しずつの蓄積、夫にすれば些細なこと、それが原因だったら、夫はほとんど理解ができない。訳も分からず頭を下げて、理由を聞くのだろう。妻が怒る目的は、夫の気づかない些細なことを気づかせること、だから難しい。

 

さて、最近SNS上にあふれている中傷などを見ていると、何か違うなと感じる。怒りの目的に根本的な変化がある。承認欲求を超えるもの、それは他者をイジメる心ではないか。人の心にある最も醜いもの、普段の社会生活では表に出せないもの、他者を傷つけることで得られる快感である。人を思いやる心を捨てて、自分の醜い感情を他人にぶつけても知らん顔ができる。1000人に1人であっても、そうした感情を表せば健全な社会は壊れていく。

 

目的を考えることはさほど難しいことではない。自分が行動することを考えてみよう。あなたは初めに行動の理由を考えますか?

目的があって行動するのではないですか。

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