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コラム

「熱意」が支えている

賢人の思考

九州旅客鉄道株式会社の出田貴宏さんに2回目のコラムを書いていただきました。

 

コラムを読んで、出田さんの仕事の向き合い方や考え方に共感しました。

 

みなさんにもぜひ読んでいただきたいと思います。

出田 貴宏 / Takahiro Ideta

九州旅客鉄道株式会社 赤間駅長を今年4月に卒業し、みらい株式会社に出向。

福岡県出身。1999年JR九州入社後、非鉄道部門(不動産・ホテル、まちづくり、経営企画、新規事業、内部監査)で新規事業創出や組織管理等に従事。NHK経営委員会やトヨタ自動車九州への出向も経験する。

九州大学大学院ビジネススクール修了(MBA) 成績優秀賞受賞。

「熱意」が支えている

前回は、「駅長」という仕事を通じて、駅での仕事は多くの人に支えられ、信頼関係によって成り立っていることをお伝えしました。

今回は、その仕事を支えている、もう一つの大切な要素である「熱意」について、私自身の経験を交えながら書いてみたいと思います。

 

 

私たちの会社では、社員一人ひとりが常に心掛けて行動する理念と規範として、「安全の綱領」を定めています。

その最初には、こう記されています。

 

> 「安全は、私たちの最大の使命である。」

 

鉄道という仕事に携わる以上、この言葉は、日々の仕事の土台になります。

 

列車を安全に走らせるためには、さまざまな部門が関わっています。

線路や設備を保守する部門。車両を整備する部門。運転士や乗務員が所属する部門。

多くの社員が、それぞれの専門性を持ちながら、見えないところで鉄道を支えています。

駅も例外ではありません。

駅というと、きっぷの販売や案内のイメージを持たれる方が多いかもしれません。しかし実際には、営業社員も線路に関わる仕事を担っています。

たとえば、駅構内の線路点検。車両が走るレールを切り替えるためのポイント清掃。また、雪による障害を防ぐためのカンテラの設置や保守管理。

こうした業務も、訓練を受けたうえで、駅の社員が責任を持って行っています。

 

 

鉄道の安全は、特別な誰か一人によって守られているわけではありません。

それぞれの現場で、それぞれの役割を担う人たちが、日々の確認や判断を積み重ねることで成り立っています。

そして、その積み重ねを支えている考え方の一つに、JR九州の「安全の方程式」があります。

 

> 〔知っていること(ルール・方法・経験)+出来ること(実践力・対応力)〕 × 熱意(意識・本音)=安全

 

私は、駅長という立場になって、改めてこの式の意味を深く考えるようになりました。

鉄道の仕事では、知識や経験はもちろん必要です。訓練を重ね、実践力を高めることも欠かせません。

しかし、どれだけ知識があり、経験を積んでいたとしても、「今日も安全を守る」という意識が失われた瞬間に、安全は崩れてしまう。

この方程式が「掛け算」になっているのは、とても象徴的だと思います。

どんなに知識や実践力があっても、そこに向き合う気持ちがゼロになれば、安全もゼロになってしまう。それだけ、「熱意」というものが大切なのだと思います。

 

私はこれまで、JR九州の中でも、鉄道以外の分野で長く仕事をしてきました。

ホテル・不動産、経営企画、新規事業、農業、まちづくり、内部監査。

さらには、異なる企業や組織への出向も経験しました。

そこで感じたのは、物事を前に進めるのは、制度や計画だけではないということです。

必要になるのは、「やってみよう」と思える人の存在です。

 

駅長に就任してすぐ、宗像市と連携し、採れたて野菜を特急列車で輸送する実証実験を企画しました。

以前、農業推進室で働いていた時に、博多駅前広場で開催されている「博多ファーマーズマーケット」の立ち上げに関わった経験もあり、市役所の皆さんと意見交換をする中で、「一緒にやってみよう」という話になりました。

そこから、鉄道物流を担当する部署とも連携し、多くの方に協力いただきながら、少しずつ形になっていきました。

農業に関わる方々。市役所の皆さん。物流部門の社員たち。そして、鉄道の現場で事業に関わる私たち。

それぞれ立場も違えば、見えている景色も違います。

だからこそ、物事が簡単に進むわけではありません。

進めようとすると、見えない障壁があったり、誰かと誰かの間にある、ほんの少しの認識のズレを丁寧に整えなければならなかったりする場面があります。

そして実際には、そうした部分を、表には見えないところで根気強く調整している人たちがいます。

 

何度も連絡を取り合い、相手の事情を理解し、お互いが目指す方向へ少しずつ進めていく。

私は、そういう仕事もまた、とても大切だと思っています。

 

また、赤間駅周辺の住民や事業者の皆さんと一緒に、地域を盛り上げていく活動にも取り組みました。

コロナ禍で活動が止まっていた「赤間駅周辺活性化協議会」も、その一つです。

 

人が集まる機会が減り、地域の高齢化も進む中で、住みよいまちづくりに取り組み、毎年行っていたイベントを続けていくことは、簡単なことではありませんでした。

さらに近年は、大雨による赤間駅周辺の冠水も発生し、駅前の安全や、これからのまちのあり方について、地域全体で改めて考えていく必要性が高まっていました。

「赤間駅周辺のこの地域を、これからどうしていくのか」

そうした課題に向き合うため、思いを持った皆さんと一緒に、協議会の体制を整え、活動を再開しました。

私自身も、地域の駅長として理事に加えていただきました。

ここでも、以前に博多まちづくり推進協議会の事務局運営に携わった経験が、大いに役立ちました。

地域の皆さまと意見を交わしながら、具体的な取り組みとして、「赤間駅前カムカム祭り」にJR九州ウォーキングを組み合わせて実施することになりました。

赤間駅前だけではなく、地域全体を歩いて楽しんでもらう。

駅を“通過する場所”ではなく、“地域と出会う入口”にできないか。

そのイベントの裏側にも、数多くの地道な積み重ねや、丁寧なすり合わせがありました。

表に見えるものだけではなく、その水面下で熱意を持って調整し、支えている人たちがいます。

 

 

こうした経験を通じて感じるのは、仕事というのは、結局のところ「人」が動かしているということです。

もちろん、思いだけで物事は続きません。仕組みも必要ですし、役割分担も必要です。

ただ、その最初に、「やってみよう」と思う熱意ある人がいるかどうか。

そして、その思いを受け止め、周囲との間を丁寧に整えながら支えている、静かな熱意を持った人がいること。

そうした一人ひとりの積み重ねによって、仕事は前に進んでいくのだと思います。

 

私は、まず自分自身が、熱意を持って仕事に向き合える人でありたいと思っています。

新しいことでも、難しいことでも、「やってみよう」と思える気持ちを持ち続けたい。

そして同時に、熱意の表し方は、人それぞれ違うということも忘れたくありません。

前に立って引っ張る人もいれば、静かに自分の持ち場を守り続ける人もいる。

表には見えなくても、内側に強い思いを持ちながら、仕事に向き合っている人もいます。

私は、そうした“静かな熱意”にも気づき、寄り添える人でありたいと思っています。

こうした信頼と熱意が、地域での活動を支えているということを、駅長として目の当たりにできたことは、私にとって大きな財産になりました。

 

JR九州には、596駅(BRT含む)があり、60名を超える駅長がいます。

私以外の駅長も、それぞれの個性と熱意を持って、地域を元気にする活動に取り組んでいます。

 

そして私は、2026年4月1日付の人事異動で、赤間駅長を卒業しました。

駅長として、組織運営や宗像市での地域連携など、組織の長として多くの経験を積むことができました。

この経験は、これからの仕事においても、必ず生きてくると信じています。

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