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コラム 賢人の思考 ~東京五輪の原則無観客化での開催に思う~
2021.07.15
2021.07.15
企業がよく社会貢献を口にしますが、本当は企業が社会や市民に生かされています。
当社は社会や市民に生かされていることを忘れず、謙虚な気持ちで日々の企業活動を行ってまいります。今回の八星篤先生の記事を読み、内省の機会を得ることができたと思います。みなさまもぜひご一読ください。
○著者プロフィール
つくだ社会科学研究所
代表 八星 篤(はちぼし あつし)氏
1972年 東京大学経済学部卒業
1972年 第一勧業銀行入行
1996年 広報部長
1997年 企画室長
1998年 横浜支店長
2000年 執行役員調査室長 兼 第一勧銀総合研究所専務取締役
2002年 みずほ銀行執行役員調査部長 兼 みずほ総合研究所専務取締役
同年 みずほ銀行退職
2003年 株式会社サカタのタネ監査役(社外)就任
2008年 株式会社サカタのタネ取締役(社外)就任
2013年 株式会社サカタのタネ取締役辞任
現在、危機管理、経済・金融等の講演・研修活動に従事 。なお、八星氏は高杉良著「金融腐食列島」シリーズの登場人物のモデルの一人と言われている(八星氏が第一勧業銀行総会屋事件時の広報部長時代がモデル)。
○テーマ
「東京五輪の原則無観客化での開催に思う」
私は5月9日高橋官房参与(当時)が各国の感染者数を比較するグラフを添え「この程度の『さざ波』これで五輪中止とかいうと笑笑」とツイッターに投稿し「こういうふうな感染のない状態で、仮に日本が中止といったら世界から笑われるだろう」とコメントしたことに対して、この一連の発言に明確に反対しました。そして、高橋さんと同じ説明資料を使って、まったく逆の結論も導くことが出来ると指摘しました。実際には、私の懸念通り、6月以降首都圏では感染者が再度増加し、おそらく1,000人を超える(もしかすれば2,000人以上)事態が起こると言われています。リスク管理の観点から見れば、このような状況下では、東京五輪は本来「中止または延期」が妥当な結論だったと思います。
新型コロナ肺炎については、まだよく分かっていないことが多く、実際にも数種類の変異株の発生等があり、治療薬の開発も、不十分であるなど、今後の研究に委ねられていることが多数あります。今は「いわゆる三密を避けること」と「ワクチン接種を進めること」しかありません。しかし、長期間に渡る「三密の回避」については、仕事のすべてをテレワークで済ませられる人は極めて少数です。また、若い人を中心に「三密の回避」にいささか飽きが来ていることもあるかもしれません。その結果、蔓延防止措置の期間でも(そもそも緊急事態宣言を何故切り替えたのかも理解できませんが)、結果として人流が増加しました。
更には、決め手とされるワクチン接種についても、ワクチンの不足が表面化する等の問題が生じていました。それでも、菅総理を始め、政府や組織委員会等の関係者は、表現を変えつつも「安心・安全な東京五輪を開催する」と言い続けました。しかし、その安心・安全の内容についてはワクチン接種以外、余り具体的な内容の説明はありませんでした。
結果論かもしれませんが、もっと早く中止・延期を決定していれば、表面上の金額的な損失は変わらないかもしれませんが、中止・延期で得られる人的エネルギーや政策手段をもっとコロナ禍の抑制に活用できたと思いますし、どっちつかずの状態が続くことによる政権に対する不信感・不安感もこれほど高まることは無かったと思います。
批判がなかなか収まらない中で、安心・安全な大会の開催についての説明も行なわれ始めましたが、これも一般には分かり難いものでした。選手を始めとした関係者をバブル状態で隔離し、空港等での検疫も強化するというものでしたが、銀行員生活の長い私にとっては、バブルは必ず破裂するという印象が強く、とても不安を解消するものではありませんでした。
実際に、空港検疫では陰性だったものが、その後陽性であることが判明するなど、マニュアル通りには運営できない状況が露呈しました。そもそも、コロナの感染が拡大する中で安心・安全を机上で考えたマニュアルで、完全に確保できると思うこと自体が、リスク管理・リスク対応の上ではあり得ない考えだと思います。
世論調査の結果が延期・中止を求める数字が何度発表されていても、最終的に観客有りで開催してしまえば、世論は必ず五輪に熱狂して、物事は収まると考えていたのでしょうか、政治が世論を軽視していたと批判されても仕方がない面があります。
また、マスコミもごく一部を除いて、公式スポンサーに名を連ねていることもあってか、スタンスがはっきりしていませんでした。東京都議選についての、自民・公明が過半数を獲得する見込みだという事前予測も安易な対応を後押ししたかもしれません。マスコミは勝利者なき選挙と言っていますが、自民党が敗北したことは明らかです。首都圏での感染者拡大と都議選の敗北が、首都圏を中心にした無観客での開催を決定せざるを得なかった直接的な要因ではありますが、この背景には一般の東京都民では、東京五輪開催への熱意が明らかに冷めていることを把握できなかったことがあると思います。
マスコミでは、東京五輪に期待する人の声が報道されることが多く、無関心という声が表面化することが無かったこともあって、この都民の雰囲気は伝わりにくかったかと思いますが、知人とスポーツの話をすると、まずは大谷翔平君の毎日の二刀流での活躍、そして大関照ノ富士の横綱昇進を期待する声が大多数でした。東京五輪が日常の中で話題になることは余りありませんでした。
私は、今回の東京五輪を巡る様々な問題について2つの指摘をしたいと思います。
第一は無観客にせよ、コロナの終息が見通せない状況にあっても東京五輪の開催を受け入れた国民や東京都民の好意について、きちんとした敬意が払われるべきだということです。
これまで東京五輪の開催に関して巨額の資金が使われてきました。今後、例え無観客でも開催されるとすると、東京には参加する選手団のほかにも、いわゆる各国の五輪委員会の関係者や内外の報道関係者が多く集まります。そのために、交通が遮断されたりすることなど、様々な不便を被る人がいます。しかし、五輪関係者を中心に「これまで、さまざまな努力を積み上げて、困難な事柄を乗り越えてこの場に臨む選手に心からの応援をお願いする」「無観客であっても、この五輪は、皆さんに夢と感動を与えるだろう」と言い続けています。
選手やボランティアの人達はこの4年間東京五輪に向けて必死の努力を続けてきたことを私は、否定はしません。ただ、一般の社会人も、五輪のような華やかな場ではありませんが、仕事や家庭生活で必死の努力を続けてきているのです。でも、その努力が必ず報われるかというと、そうではありません。むしろ努力が報われる人の方が少数でしょう。それを本人の努力が足りないせいだなどと言う評論家もいますが、この人達こそ社会の実態を知らないと言えます。国民や東京都民が莫大な負担を強いられつつも、東京五輪の開催を認めたことについて、関係者は真っ先に、国民や東京都民に深い感謝の意を示すべきだと思います。
しかし残念なことに「メダルを目指して頑張る」という人は多いですが、感謝の念を表す人はごく少数です。まだ、人生経験の乏しい選手には、自分の努力が大変だったことや関係者の支援が有難かったということは理解しても、実際には国民や都民に支えられている部分が大きいことに思いが至らないかもしれません。そうしたことを教育・指導することこそ組織委員会、JOC、各種スポーツ団体、個々の指導者の役割だと考えます。
これは決して精神論ではなく、これからのオリンピックや各種競技について国民の理解を得るための重要な経営管理の一環であることを関係者は認識する必要があります。
また「無観客であっても、この五輪は、皆さんに夢と感動を与えるだろう」という言い方には大きな違和感を覚えます。夢や感動は、見ていた人自らが感じるものであり、決して選手から与えられるものではありません「感動を頂いた、ありがとう」などの表現がファンから寄せられることを、一般にも通用するものと誤解しているのでしょう。プレーをする側が「感動や夢を与えたい」と言うことは「上から目線の言い方だ」と思う人も少なくありません。MLBに挑戦し、けがを克服しながら、オールスターにも登場し、今シーズン二刀流で大活躍している大谷翔平選手や大関から序二段まで陥落し、けがと戦いながら大関に復帰し、今場所横綱を目指している照ノ富士関は「夢や感動を与えたい」とは言いません。観客は与えられなくても、その姿を見て感動をするのです。五輪選手だけが特別な存在ではないことも教育する必要があります。
第二に指摘したいことは、我々も今回の教訓を今後に生かさなければならないということです。五輪の歴史を振り返れば、それが政治に利用されたり、特に1984年ロサンゼルス大会以降五輪を開催することで、開催都市にも経済的なメリットがある。また開催の利権はIOCと海外の大手マスコミに握られていることがはっきりしました。
政治からは独立したスポーツを通じた平和の祭典という虚像の実態が見えたことは悪くないと思います。まずは、今回、東京五輪の開催のためにどの程度の費用が掛かったのかをきちんとした報告書としてまとめる必要があります。長野五輪の後も、使途不明金があったけれども、書類が不明だったことがありました。今回は、どのような費用がどのように支出され、その負担は最終的にどのようになされたかをはっきりさせることが、東京五輪の最大のレガシーになると思います。
また、今回の東京五輪の招致についても、東京都、日本国政府と国際オリンピック委員会との間でどのような契約がなされていたかについて、チェックが不十分だったと思います。
ともかくオリンピックが招致できれば良いという前提で、全ての物事が動いていた。私自身も、パンデミックの状況でも、原則開催する。辞める場合の負担は開催都市、開催国にあるということは、全く把握していませんでした。民間では、契約書チェックの重要性は当然のことですが、官ベースは脇が甘くなりがちです。
さらには、米国のスポーツ業界とマスコミの都合が最優先されている五輪ですが、これについて再検討が必要です。それがなされるならば、今回の東京五輪も将来に向けて意味があった大会になると思います。
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