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コラム 賢人の思考 ~英帝国戦争博物館の製造プレート付き零戦~
2020.04.20
2020.04.20
今回は笹子善平先生に、「英帝国戦争博物館の製造プレート付き零戦」というテーマでコラムを書いていただきました。
現在、新型コロナウィルスの感染拡大が企業に大きな打撃を与えておりますが、私もこのようなパンデミック(世界的大流行)が起こるとは想定していませんでした。前々からその危険性は弊社のコンサルタントから聞いてはいたのですが・・・。
笹子先生のコラムから、バランスとリアリズムを考慮したリスク管理のあり方を学びましたので、弊社のリスク管理のあり方をもう一度考えてみたいと思います。
経営においてリスク管理は最も重要だと考えます。ぜひご一読ください。
【著者】
笹子善平氏
【プロフィール】
(現在)
桜美林大学非常勤講師
中部大学経営情報学大学院非常勤講師
危機管理システム研究学会理事
日本証券アナリスト協会検定会員、公認内部監査人、公認情報システム監査人
(略歴)
1980年東北大学法学部卒。同年第一勧業銀行入行。同行・国際資金為替部、統合リスク管理部次長、みずほ銀行業務監査部担当部長、みずほ証券業務監査部部長、名古屋ビルディング(株)監査室長等経験。
【記事】
テーマ:英帝国戦争博物館の製造プレート付き零戦
2000年代にロンドンを訪れた時に、友人の母上でショッピングが嫌いだという個性的な老夫人を、この博物館に案内したことがあります。テムズ河の右岸、中心地の対岸に少し奥まったところにあり、入り口にドレッツドノート級戦艦の主砲が鎮座してお出迎えをしてくれました。広い敷地に昔精神病院の病棟だった建物を改装して戦争博物館にしたという、英国流のブラックユーモアたっぷりの設定になっておりました。
第一次世界大戦から第二次世界大戦の兵器を中心に、多彩な資料やフィルムの展示が豊富にあり素晴らしい展示でした。少年マガジンやサンデーで「紫電改のタカ」などを読んで育った世代の僕らには興味深いものでしたが、老婦人も自分の女学校時代の戦争体験をダブらせて、国防婦人会英国版のような展示資料の国民服と竹槍そっくりにしか見えない粗末な生地の制服と先を尖らせた長い棍棒を食い入るように見つめておりました。尖った先に金属のキャップが付いていて殺傷力を補強する構造になっており、竹槍と違いさすが英国製と感慨深い様子でした。航空機もバトルオブブリテン(ドイツ空軍の攻撃をレーダーと防空戦闘機で撃退した)の勝利の象徴であるスピットファイアー戦闘機をはじめ、多数展示されておりました。
その中に、戦利品として撃墜されたと思われる零戦の胴体部分も、コックピットの中を見れるように切断されてケースに入って展示されておりました。その機体には、西日本の中島飛行機の工場名、製造日付、シリアル番号等がしっかりと記載されたプレートが付いていました。この事実は本を読んで知ってはいましたが、実物にはさすがに衝撃を受けました。このプレートにより、連合軍は三菱製の零戦が中島飛行機の工場でも製造される会社を超えた生産体制を取っていること、日付により生産から前線配備までの展開力、シリアルナンバーにより全体の想定される製造能力など、極めて重要な情報を知ることが出来たと言われています。
当初、連合軍は製造プレートなどつけるはずがないと考え、罠かもしれないと疑っていまいしたが、撃墜した機体を複数調べる内に、どうも間違いないとの確信を得ました。そして複数の機体からの情報を総合し、偵察機等も情報も合わせて緻密かつ有効な戦略爆撃の計画を立てて実行しました。結果はご存知の通りです。
日本の軍需産業の情報管理は、どうなっていたのでしょうか? 問題意識がなかったわけではありません。むしろ逆に厳しく管理されていたと言われています。例えば、「この世界の片隅で」には、絵が好きな二十歳ぐらいの主婦である主人公が呉軍港の方向を写生しただけで憲兵に検挙される逸話があります。また、在留の外国人は国籍を問わず、個別訪問でいやがらせのように牽制し、尾行をして諜報活動をしていないかの確認をしていたと言われ、フジ子・ヘミングさんなど多数の人が証言しています。勤労動員で兵器工場に勤務した経験のある老婦人の話では、家でも学校でも工場の話はタブーで、「うかつなおしゃべりをしてはいけない。」と、怒られたそうです。
この憲兵隊の情報管理と製造プレート付きの零戦がうかつに前線に出て行くことをどう考えるべきでしょうか?軍需産業の情報に対するリスクを考えるときに、システム・プロセスなどの工程系の危険源と内部不正外部不正などの人間系の危険源に大別されますが、大日本帝国のリスクアセスメントは明らかに人間系を偏重しており、工程系への配慮が不足していたと言わざるを得ません。しかも、人間系は若い主婦の写生を取り締まるなど明らかにオーバースペックです。このオーバースペックで自己満足していたとも言えると思います。冷静に全体のリスクを想定して、それを評価し対応する方法を考えるリスクマネジメントの発想が全くなかったと言うことでしょう。事実と向き合うリアリズムが必要です。米英のスパイが若い主婦を買収し写生の形式で軍港やドックの様子を把握し報告させていると考えることとこの戦闘機が撃墜されたらどうなるのかを考えることのバランスが取れていません。
私は、憲兵隊の行き過ぎた取り締まりと製造プレート付き零戦はコインの裏表だと思います。管理のレベルを上げることは、オーバースペックによるのではなく、全体のファクトと向き合い広い視野で分析し考えつづけることで実現するしかありません。自己満足のオーバースペックの管理は、どこかで全体の管理を歪ませ、やるべきことをやれていない危険な兆候だと考えるべきだと深く思い、味のある博物館を後にしました。
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