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「駅長」という仕事から見えたもの

賢人の思考

九州旅客鉄道株式会社の赤間駅長をつとめられる出田貴宏さんにコラムを執筆していただくことになりました。今回は出田さんが駅長の仕事を通じて見えてきたものとは何だったかを綴っていただきました。仕事を通じて貴重な経験をされている出田さんのコラムを皆様もぜひご一読ください。

執筆者 出田 貴宏 / Takahiro Ideta

九州旅客鉄道株式会社 赤間駅長

福岡県出身。1999年JR九州入社後、非鉄道部門(不動産・ホテル、まちづくり、経営企画、新規事業、内部監査)で新規事業創出や組織管理等に従事。NHK経営委員会やトヨタ自動車九州への出向も経験する。

九州大学大学院ビジネススクール修了(MBA) 成績優秀賞受賞。

「駅長」という仕事から見えたもの

はじめまして。出田貴宏です。現在、九州旅客鉄道株式会社で赤間駅長として働いています。

私は、27年間のキャリアの大半を鉄道以外の分野で過ごしてきました。事業開発やまちづくり、さらにはNHKやトヨタといった異なる組織への出向も経験し、その時々で与えられた役割に向き合ってきました。

 

そうした歩みを経て、いま再び「駅」という現場に立っています。

このコラムでは、これまでの仕事や経験を通じて考えてきたことを、少しずつ言葉にしていきたいと思います。

 

第一回は、私の現在の仕事、「駅長」という仕事についてです。

 

福岡市から北へ少し上がった場所に、宗像市があります。ここは、宗像大社を中心とした世界遺産を有する地域であり、古くから人と文化の往来を支えてきた土地です。

その宗像市の中心となる駅が、赤間駅です。通勤・通学で利用される日常の駅である一方で、観光や地域の拠点としての役割も担っています。

そして、赤間駅長は単に一つの駅を預かるだけではありません。宗像市内にある東郷駅、教育大前駅も含めて、約20名の社員を統括する立場にあります。

 

駅長の仕事には、大きく二つの側面があります。一つは、駅をまとめる仕事。もう一つは、地域の顔として、地域の盛り上げに関わる仕事です。

まず、駅をまとめる仕事。その中心にあるのは、やはり安全です。列車が安全に運行されること。お客さまが安心して利用できること。これはすべてに優先される前提です。

もう一つは、営業。きっぷの販売やお客さまへのご案内といった日々の業務を通じて、収益を支え、お客さまにご満足いただける環境をつくる仕事です。

 

ただし、これらは駅長一人でできるものではありません。

現場で働く社員一人ひとりと一緒に進めていくものです。

そこで重要になるのが、社員のモチベーションと、仕組みとしての運営管理の組み合わせです。気持ちだけでは回らない。仕組みだけでもやりがいが高まらない。この両方をどう整えるかが、駅長の見ている視点になります。

 

そして、その土台にあるのが信頼です。日々の小さなやり取りの積み重ね。

判断を任せること、任されること。うまくいかないときにも対話を続けること。

こうした積み重ねがあって初めて、現場は一つのチームとして機能します。

もう一つが、地域の盛り上げに関わる仕事です。

たとえば、駅ごとに企画を競い合う「駅長対抗丼総選挙」や、地域を歩いて楽しむJR九州ウォーキングの企画。こうした取り組みは、鉄道の利用促進だけでなく、地域そのものの魅力を引き出すことにつながります。

 

さらに、駅長は地域のさまざまな役割も担います。自治体や警察が設置する委員会の委員、観光協会の理事としての活動。地域で行われる祭りや行事への参加。

つまり、駅の中にとどまらず、地域全体に関わる立場としての役割が求められます。

 

ここでもやはり問われるのは、信頼です。

一朝一夕に築けるものではなく、日々の関わりの中で、少しずつ積み上がっていくもの。

駅という場が、単なる通過点ではなく、地域の一部として受け入れられているかどうかは、こうした信頼関係に大きく依存しています。

 

こうした仕事を通じて、私が強く感じたのは、仕事とは「何かをすること」だけではなく、「関係性をつくり、その関係の中で信頼を育てていくこと」でもあるということでした。

駅の中での安全や営業も、地域との関わりも、突き詰めればすべて人と人との関係で成り立っています。

そしてもう一つ。駅長の仕事は、決して派手ではありません。むしろ、何も起きないことが最も良い状態です。しかし、その「何も起きない状態」は、偶然に成り立っているわけではありません。

日々の積み重ねと、見えないところでの判断と、人と仕組み、そして信頼のバランスによって支えられています。

 

振り返ると、これまで私は、どちらかといえば「新しいことを立ち上げる側」にいる時間が長かったように思います。

構想を描き、仕組みをつくり、関係者をつなぐ。そうした仕事の中でも、最終的に問われていたのは、やはり「信頼」でした。

 

どれだけ優れた計画でも、それを担う人たちの間に信頼がなければ、前には進まない。

 

そして今、駅長という立場で現場に立つと、その信頼がどれほど繊細で、日々の積み重ねによってしか成り立たないものかを、改めて実感します。

 

赤間駅での日々は、そうした「目に見えない前提」に気づく時間でもあります。

 

世界遺産を抱える地域の玄関口として、日常と非日常が交差する場所で、人と人の流れを支える。その中で育まれる信頼こそが、この場所を静かに支えているのだと思います。

 

このコラムでは、こうした現場での経験を起点に、仕事や組織、そして生き方について考えていきます。

 

次回は、赤間駅での仕事について少し具体的に見ながら、そこで考えていたことについて書いてみたいと思います。

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