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テーマ ~ 株式会社という「知恵の器」② ~
2026.05.25

2026.05.25

前回に引き続き京都大学経営管理大学院 特命教授 加藤晃氏に、今回は少しアカデミックな視点から、株式会社が社会に及ぼす影響とその潮流についてご執筆いただきました。
最後に参考文献の紹介もありますので、このコラムでご興味をもたれた方はそちらもぜひご覧ください。

京都大学経営管理大学院 特命教授
東京理科大学大学院 教授を経て嘱託教授
防衛大学校(国際関係論)卒
青山学院大学大学院博士後期課程修了 博士(経営管理)
元AIU保険会社 部長/元AIGインシュアランスサービス 代表取締役
経済産業省ISO/TC322国内委員、日本経済新聞社 機関
前回は、株式会社の特徴について、多くの人から資金を集め有限責任にすることで、リスクを分散しながら事業に挑戦できる仕組みであること、資本と経営の分離、そして株式会社のミニ歴史で役割の変遷、問題を簡単に振り返りました。今回は、株式会社が社会に及ぼす影響と最近着目されている潮流/著作を紹介したいと思います。ちょっぴりアカデミックになりますが、お付き合いください。
倫理資本主義を巡る現代経済学の潮流
ノーベル経済学賞受賞者ジョセフ・スティグリッツ(注1)は、グローバル資本主義がもたらす格差と市場の失敗に警鐘を鳴らし、政府の介入と制度設計による「包摂的資本主義」の必要性を訴えています。コリン・メイヤー(注2)は、企業の目的を「株主価値の最大化」から「社会的目的の追求」へと再定義し、企業法や会計制度の改革を通じたインセンティブ設計の見直しを提案しています。哲学者マルクス・ガブリエル(注3)も、倫理なき経済合理性が制度疲労と社会的分断を招くとし、経済活動に意味と責任を取り戻すべきだと主張しています。これら三者の議論は、倫理資本主義を単なる理念ではなく、制度改革と政策介入によって実現可能な経済モデルとして位置づけている点に特徴があります。市場の効率性と社会的正義の両立が、今や経済学の中心課題となり、企業・政府・市民社会の協働が求められていると言えそうです。資本主義を形作る株式会社と社会との契約と言い換えても良いかもしれません。しかしながら、本当に社会的目的の追求などできるのか?きれいごとではないのか?
社会との契約
株式会社は「社会との契約」でもあります。かつての日本の会社は、社員を家族になぞらえて大切にする終身雇用で称賛されました。そして、いわゆるバブル期からほんの少し前までM.フリードマンに代表される株主の利益を優先する「株主資本主義」が奉じられ、2015年のパリ協定の締結以降は国連SDGsにあるように、株主だけでなく、従業員、顧客、地域社会、環境といった多様なステークホルダーへの責任が問われるようになってきました。「ステークホルダー資本主義」への転換です。これは、単なる流行ではありません。資本主義が持続可能であるためには、社会との共生が不可欠だからです。
もっとも、第二次トランプ政権の誕生、欧州におけるポピュリズム政党の躍進。そうした動向を反映してか、環境に配慮しているように見せかける問題行為の「グリーンウォッシング」に対し、実際に取り組んでいるにも拘わらず、その情報開示を意図的に控える「グリーンハッシング」も見られるとの指摘があります。ちなみに英単語のHushingとは、人差し指を口元に立てて「シーッ」とする仕草のことです。
「知恵の器」のまとめ
このように見てくると、株式会社とは単なる法人格ではなく、リスクを制御/分散しながら挑戦を可能にし、社会との信頼関係を築くための制度的インフラであり、時代の変化に翻弄されつつ変遷を遂げてきたことが何となくご理解頂けるかと思います。ビジネスパーソンは、この制度の上に立って日々の仕事をしています。だからこそ、その仕組みと意義を理解し、活用する力が求められるのです。私たちは、株式会社という器にどのような志を注ぎ、どのような価値を創造し社会に届けていくべきなのでしょうか?
次回は、「価値」とは何かについて、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
興味のある方は、以下の参考文献(邦訳)をご覧ください。
注1:ジョセフ・E・スティグリッツ(2025)『スティグリッツ 資本主義と自由』東洋経済新報社
注2:コリン・メイヤー(2024)『資本主義再興』日経BP
注3:マルクス・ガブリエル(2024)『倫理資本主義』ハヤカワ新書

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