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死について考える
2026.07.13

2026.07.13

大学院博士課程で哲学を学ばれておられる石川雄一さんに、「死」をテーマに書いていただきました。
人間が誰しも避けることのできない死について見つめ直す機会にしていただければ幸いです。

慶應義塾大学経済学部卒業後、東京海上火災保険株式会社(現:東京海上日動火災保険㈱)に入社。
主に国内営業畑を歩み、近畿業務推進部長、札幌中央支店長などを歴任。
55歳で自動車メーカー保険代理店の常務取締役となり、経営と人材開発に尽力。退任後、大型自動車メーカー関連会社参与を経て退職。
2017年に立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科入学し、2019年3月に修士課程修了。MBA(経営学修士・社会デザイン学)
現在、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士課程に在籍し、企業組織に関する研究の傍ら、セミナー講師など精力的に活動している
初夏に相応しくないタイトルで恐縮だが、最近親しい友人が亡くなるという体験をしたのでご容赦を願いたい。
半年ほど前に大学の同級生が亡くなった。病気見舞いに行った3か月後の訃報だったので驚いた。さらに死因が誤嚥性肺炎と聞いたので、予期せぬ突然の死だったのだろう。OB会の役員だったこともあり、葬儀では100人を超す参列者が別れを惜しんだ。
これを書いている最中に会社の一年先輩の訃報が飛び込んできた。2月末に一緒にゴルフをしたので、まさかという驚きだった。4月末に抗がん剤治療を始めて1週間だという。5月10日に家族葬を済ませたとの連絡で、残念ながら弔いの意思表示もできなかった。
2月にこのコラムに竹下社長の追悼文を掲載いただいた熊倉百音子さんは、筆者の大学院修士課程の同期で苦労を共にした仲間であり、修了後にも時々情報交換する間柄だったので、その死に対する驚きと喪失感は計り知れないものだった。一回り以上年下である彼女の死に直面して、改めて死について考えたものである。
身近な死を体験してすぐに思いだしたのが、フランスの哲学者ジャンケレヴィッチの「死の3分類」である。これは非常に有名なのだが、この本『死』は500ページを超す哲学書であり、おそらく特定の人以外で読み切った人は少ないだろう。筆者もその一人である。死の3分類は、この本のごく初めのほうに書かれている。3分類とは「三人称の死」「二人称の死」、そして「一人称の死」である。
日夜ニュースで流れてくるのは「三人称の死」であり、ガザやウクライナがあれば、国内某所での死もある。親が子を殺した、遺体を焼却炉で焼いた事件などもある。著名人の訃報があれば、思いを深くすることもあるだろう。しかし自分にとっては、第3者の死であるから客観的に受け取ることができる。
「一人称の死」とは自分の死である。だから若いうちは、よほどのことがなければ普段は深く考えないだろう。
「二人称の死」とは自分にとって近しい人や大切な人、親兄弟や親しい人たちの死である。私たちは、二人称の死に直面して、改めて「死」を考える。死を考えるとは、自分の中でそれをどのように受け止め、整理するかということである。そのときでなければわからない、悲しいなどの感情を越えたところから始まる別れの体験である。
筆者にとって、熊倉さんはまさに二人称の死であり、突然で予想外のものだったから、その報に接した瞬間の感情は特別のものだった。まず驚きであり、続いて限りない脱力感で、それは哀しみとは少し異なる、あまり味わうことない感覚だった。心だけではなく、体感でもあり、文字通り力が抜けてしまった。同じ二人称でも、親の死とは全く違うものだった。いまだに整理のつかないもやもや感が抜けない。
二人称、三人称の死は、自分がそれを受け止める立場である。自分にとってどういう意味のあるものかである。亡くなった人との関係性はさまざまである。いっぽう一人称の死は、自分では受け止められないから二人称、三人称とは別物である。だから、一人称の死はない、ともいえる。子をなくした親の立場では、それは1.5人称の死といえるかもしれない。
一人称の死は経験できない。「死」ではなく「命」と言い換えなければならない。すると、命は誰のものか、という問題になる。あなたの命は誰のものなのか。自分の命は、本当に自分のものなのか。自分のものならば、自由にそれを断つこともできるはずだ。安楽死の扱い方で行われる議論である。自死は罪なのか。
自分が死んだときのことを想像してみる。身体から遊離した魂が空間から、横たわる自分と、周りで悲しんでいる人たちを見ている。ということは、一人称の死とは、周りで悲しむ人たちにとっての二人称の死である。想像するしかないが、見られるという逆の立場になったとき、どれだけの人が二人称の死として受け止めてくれるだろうか。一人称の死の場では、あなたの命の扱いは他者にゆだねられている。
二人称の死を経験したとき考えるのは、それは自分の死の裏返しだということだ。あなたが二人称の死を深く悼むことができるならば、あなたの死を悼む二人称の人たちがいることを知らなければならない。
V.ジャンケレヴィッチ、1978、『死』みすず書房

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