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コラム 賢人の思考  ~ 現代版「百姓」のリアル その3 ~

賢人の思考

 

 

横浜市で江戸時代から続く16代目の農業経営者である金子栄治郎さんに農業者がどのような考えや取り組みをしているのかをコラムに書いてもらいました。

法律が新たに制定されるのを契機に、農業でも新しい働き方に金子さんは取り組まれています。

その取り組みをお時間がある時に読んでいただければと思います。

【筆者】金子 栄治郎 / Kaneko Eijirou

Universal Agriculture Support 合同会社 代表社員

キャリアコンサルタント

 

都会である横浜市青葉区に農地2ヘクタールある16代つづく金子農園の後継者。

2004年から家業に入って10年間イチゴ栽培を行い、神奈川県いちご連合会品評会にて2010年いちご連会長賞、2012年神奈川県議会議長賞受賞。

現在は農業や農福連携などのコンサルタントとして活躍する傍ら、自社農園でミニトマト「みのりっち」など、様々な野菜や果実の半自動管理や知的障碍者の人たちと一緒に収穫作業を行う農福連携を実践中。

テーマ ~ 現代版「百姓」のリアル その3 ~

日本の新しい自由刑である「拘禁刑」が始まる

2025年6月1日施行の刑法改正では、懲役と禁錮が廃止され、新たに「拘禁刑」が創設されました。拘禁刑は刑務所収容の点では従来と同様ですが、受刑者の特性に応じて作業・教育・治療など柔軟な処遇を行える点が特徴で、更生・再犯防止を重視しています。また、執行猶予制度も改正され、再度の猶予が「2年以下の拘禁刑」に拡大されるなど要件が緩和され、公判中に猶予期間が満了しても効力が継続する仕組みが導入されました。これにより118年ぶりに自由刑体系が刷新され、刑罰の目的が「社会復帰支援」へ大きくシフトした点が重要です。

法改正の背景には、再犯で何度も刑務所に帰ってきてしまう人も一定数おり、こういった人々は天涯孤独であるケースが多いようです。刑法改正を契機に、法務省は刑務所出所者や保護観察対象者の社会復帰支援の一環として、農業分野との連携を進めています。農福連携の枠組みを活かし、受刑者や更生保護対象者が農作業を通じて働く機会を得ることで、心身の安定や社会適応を促進し、再犯防止にもつなげています。農業側は人手不足解消や地域活性化につながり、福祉分野と法務分野の協働モデルとして注目されています。

 

海外の事例になりますが、「ジャルダン・ド・コカーニュ」は、フランス全土に広がる有機農業を基盤とした社会的就労支援のネットワークです。失業者や社会的に困難を抱える人々に4カ月から2年程度の有期契約を提供し、農作業や販売活動を通じて生活リズムの回復や職業スキル習得を支援します。地域の市民には野菜を宅配する仕組みを採用し、福祉と環境配慮を両立したモデルとして展開。現在100以上の農園が運営され、数千人の社会復帰を支えている取り組みです。

 

多様な人々と食べ物を一緒に作る。こんな取組を広げていきたいと考えて行動しています。

皆さんは出所者(刑期が終わった人)のことをどのように感じていますか?

 

法定雇用率と農福連携

皆さんは、法定雇用率をご存じですか? 

法定雇用率とは、障害者の雇用を促進するために企業や公的機関に義務付けられている雇用割合です。日本では従業員43.5人以上の企業に適用され、民間企業は2.5%、国や自治体は2.6%、教育委員会は2.7%の雇用率が求められます(2024年度時点)。

不足分は「障害者雇用納付金」として納める必要があり、達成企業には調整金が交付されます。雇用率の達成は、企業の社会的責任だけでなく、人材多様化による組織力向上にもつながるとされている制度です。この制度には「多様な経営」を企業に行って欲しいという想いが込められています。

 

法定雇用率を達成するために「特例子会社」という制度があります。

特例子会社とは、親会社が障害者雇用を進めるために設立した子会社で、一定の要件を満たすと親会社の雇用率に算入できる制度です。メリットは、障害特性に配慮した職場環境を整えやすく、多様な業務設計や専門支援員配置により安定した雇用を実現できる点です。一方で、デメリットとして設立や運営にコストがかかること、親会社との分断が進むと“隔離雇用”と批判されやすいことがあります。適切に運用すればCSR(企業の社会的責任)と雇用促進を両立できるとされています。

今、この特例子会社は、厚生労働省の公表によると、令和6年(2024年)6月1日現在、全国で614社に達しています。その中で農業分野に取り組む特例子会社は、令和5年度の時点で60社と報告されています。前年の51社から増加しており、農業を通じた障害者雇用の拡大や農福連携の推進が着実に進んでいることがわかります。特例子会社制度は雇用率達成の有効な手段であると同時に、農業分野では地域資源の活用や社会的包摂の実践の場としても期待されていることがデータから伺えます。

 

農業と福祉の相性がなぜ良いのかというと、工程分解をすることが可能だからです。

工程分解とは、農作業を細かな手順に分け、それぞれの工程を障害の特性や能力に応じて割り当てる仕組みです。例えば、播種・育苗・除草・収穫・袋詰め・出荷といった流れを整理し、得意な作業に参加できるように設計します。これにより作業の負担を軽減し、ミスの防止や効率化を図れるだけでなく、成功体験を積み重ねることで働く意欲の向上にもつながります。工程分解は農福連携を持続可能にする基盤です。現在の課題は、農業者側にあり、一人でいままでは全部やっていたところに他人を入れることへの抵抗がある農業者が少なからずいます。しかし、他者との連携をしていかないと「器用貧乏」になってしまうということを農業者は認識していく必要があると考えます。

皆さんの仕事は、色々な人に助けてもらえる仕事になっていますか?

 

郷土芸能と農業

郷土芸能と農業は、日本の地域文化において深く結びついています。

多くの郷土芸能は五穀豊穣や豊作祈願を目的に発展してきたもので、田植え歌や収穫祭に合わせた踊り、神楽や太鼓などは農作業の節目に欠かせない行事でした。農業の営みは季節のリズムに沿って行われ、郷土芸能もその暦に合わせて継承されることで、地域の共同体意識を強めてきました。また、農閑期に芸能活動が盛んに行われ、労働からの解放や娯楽の役割も担っていました。しかし近年において、農業の機械化は労働の効率化を進め、生産性を大きく向上させましたが、その一方で郷土芸能の担い手減少にも影響を与えています。従来、田植えや稲刈りなど農作業の節目には、歌や踊り、太鼓などの芸能が共同作業の中で自然に継承されてきました。しかし、農業機械の導入により作業が短縮・省力化され、地域での協働機会や祭礼準備の時間が減少しました。その結果、芸能を体験的に学ぶ場が失われ、若い世代が関わるきっかけが減っています。また、兼業化や農外就労の増加で地域住民が忙しくなり、練習や公演に参加する余裕も少なくなっています。こうした背景から、農業と密接に結びついていた郷土芸能の担い手が減少し、郷土芸能の継承が困難になるという課題が生じています。

 

私は、10歳から横浜市青葉区にある平川神社囃子保存会に所属して活動を続けています。これまでに囃子保存会が新稽古という形で新規会員を増やすために私も含め指導をしてきましたが、定着率があまりにも低く指導するモチベーションも下がってしまう状況です。

参加してくる方は「習い事」の一つぐらいにしか考えておらず、一生お付き合いをするという概念は持ち合わしていない人が多数派です。かつては、親から子へと受け継がれていく流れがありましたが、現在ではほとんど断たれてしまっています。現在、地元の郷土芸能を次世代に引き継ぐため奮闘中です。

 

「Agriculture」は、農耕文化とも訳します。私は、この「Agriculture」を次世代に残していきたいと考えています。

皆さんの身近に、郷土芸能はありますか? もしあれば、興味をもっていただけますと幸いです。

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