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AIによる分析終了後、経営者に残る「問いの目利き」
2026.09.14

2026.09.14

京都大学の加藤晃先生に「AI」についてコラムを書いていただきました。
AI時代の到来で私たちに求められていることは何なのでしょうか?
思考のプロセスは「仮説」と「検証」の繰り返しですが、仮説=問いを立てることは未だAIには出来ないことでもあります。
今後私たちは問いを立てる思考力をどう身に付けるのかが大切となってきます。
今後の歩みを考える機会にしていただきたいと思います。

京都大学経営管理大学院 特命教授
東京理科大学大学院 教授を経て嘱託教授
防衛大学校(国際関係論)卒
青山学院大学大学院博士後期課程修了 博士(経営管理)
元AIU保険会社 部長/元AIGインシュアランスサービス 代表取締役
経済産業省ISO/TC322国内委員、日本経済新聞社 機関投資家レポートアワード審査員
専門:経営戦略、情報開示
生成AI(LLM)とAIエージェントは、かつて数週間を要した事業環境分析を数分に縮めてしまった。地政学リスクの兆候、規制の方向、技術の萌芽、サプライチェーンの脆さ。従来は統合し難かった非構造化データを横断で読み解き、複数の未来像を描き、事業機会からリスク、財務インパクトまで並べてくれる。戦略はいまや「静的な計画」から「動態的な運用」へと移りつつある。企業はもはや未来を予測するのではなく、変化に適応し続ける能力を問われる。分析はもはや人間の専有物ではない。
AIは企業を巡る事業環境変化を常時監視し、シナリオを自動で更新できる。最も起こり易い「基準」の未来、低確率でも衝撃の大きい「不測」の未来、新市場が芽吹く「好機」の未来。この三つを描き分け、絶えず書き換えていく。数年をかけて中期経営計画を練り上げる作法は、その賞味期限が短くなるほど分が悪い。開示そのものの見直しを迫られる企業もいずれ出て来るだろう。
しかし、ここで立ち止まって欲しい。その分析力が誰の手にも届く時、何が競争の分かれ目になるのか。皆が同じ道具を持てば、道具そのものは差別化の要因ではなくなる。同じPESTELもSWOT分析も、AIに与えれば誰の手元でも似た体裁の分析が返って来る。整ったフレームワークほど模倣され易い。優位は道具の外側、それを操る人の側へ移る。
筆者はその答えを「問いの選別」に見ている。戦略の本質は精緻な分析ではなく「何を問うか」の選択にある。試しに、同じAIに似たような問いを投げてみるとよい。似たような答えしか返って来ない。優れた分析装置ほど、凡庸な問いからは凡庸な結論しか生まないのである。皆が同じAIに同じ問いを投げれば、業界全体が似た戦略へ雪崩れ込む。横並びを抜け出す一手こそ、問いの組み替えにある。
たとえば、「AI投資は妥当か」と問えば、AIは一般論を返す。ところが「AI投資が投下資本利益率(ROIC)に寄与する具体的なプロセスは何か」と問い直した瞬間、議論の解像度は一段跳ね上がる。問いを変えれば、AIは同じ道具のまま、まるで違う地図を描き出す。前提を反転する。他者の視点を借りる。事業を定義し直す。シナリオの軸そのものを疑う・・・。「どうすれば強みを伸ばせるか」を「その強みは実は明日の弱みではないか」と裏返してみる。あるいは守ってきた成功体験を、あえて身軽な新規参入者の目で眺め直す。同じ市場データを前にしても、AIが返す結論は様変わりするはずだ。
もっとも、AIには厄介な癖がある。多様な観点を並べているようでいて、最後は無難な結論へ静かに収束する。厖大な文章を平均して学んだLLMは、放っておけば人々の平均へ、最大公約数の答えへと引き戻されるからだ。ハルシネーション(もっともらしい誤情報)も、確率で言葉を紡ぐ機械である以上ゼロにはできない。だからこそ、広げた問いの束から非凡を選り分け、出力を批判的に吟味する眼が要る。この「目利き」こそAI時代に人間へ残された技法だ。
では、この目利きは一部の天才だけのものなのか。筆者はそうは考えない。優れた経営者が無意識に働かせている選別の勘所は、暗黙知として言葉になり難いだけで、決して伝えられない資質ではない。問いをどう広げ、その束から何を基準に選び取ったのか。理由を対話のなかで言語化し組織で共有していけば、個人の技は次第に「型」として根づいていく。選んだ理由を書き留める習慣が、勘を他人にも使える基準へと結晶させる。野中郁次郎が説いた知識創造の循環(SECI)は、まさにこの暗黙知と形式知の往復を回す営みに他ならない。教わった型をまず「守り」、やがて「破り」、ついに型を「離れる」。武道でいうその守破離の階段を、人とAIが組んで一段ずつ登っていく。熟達は一代で終わらせず、次の世代へ手渡していける。分析の外側にある競争力とは、突き詰めれば、問いの目利きを個人の勘から組織の仕組みへと引き上げる力なのである。
AIは未来を描く。人間は未来を選ぶ。この役割分担は、AIが問いまで完璧に担う日(シンギュラリティ)が来るまで揺るがない。その日が来るのか、来るとしていつなのかは誰にも分からない。確かなのは、分析の速さで競う時代はもう終わったということだ。これからは「問いの目利き」で勝負する時代だ! さあ、あなたはどのような未来を問い、選び取るだろうか。

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